進路指導室で、愛を叫んで
 体育祭が終わると、夏が近づいて暑くなる。

 アジサイの時期が終わると、朝顔が茂り始める。

 ヒマワリの背丈もずいぶん伸びてきた。

 朝と夕方の二回、水やりをしたり、草むしりや害虫駆除をしたり。

 春の花を片付けて、秋に向けて種を撒いたりもする。


「須藤くん、夏休みって予定ある?」


 夏前の夕方、部活を終えてカバンを持ったとき、先輩に声をかけられた。


「先輩のためなら全日空けます」

「そうじゃなくて、水やりしにこないといけないから」

「ああ、そういうことなら大丈夫です。先輩、来られない日ってありますか?」

「私はお盆前は忙しくて来れないと思う。花屋はかき入れ時だから」

「わかりました。じゃあ、そこは俺が水やりしておきますね」

「ありがとう」


 夕陽に照らされた先輩は眩しくて、一番星よりも輝いて見えた。



 秋には花の植え替えをしたり、ざくろを取って食べたり、落ち葉を集めて芋を焼いたりもした(美園先生に頼み込んで見守ってもらった)。

 文化祭は二日間あって、初日の夕方に数時間だけ先輩と一緒にまわった。


「先輩、今日もかわいいですね。行きたいところってありますか?」

「……うん。えっとね、ステージを観に行きたいな。その前に飲み物がほしいから、こっちの……」

「藤宮、そいつ彼氏?」


 そう声をかけてきたのは、三年生の男の人。先輩は「あー……」と困った顔で、俺とその人を見比べた。


「部活の後輩です。先輩、この人と知り合いなんですか?」

「う、うん。同じクラスの人だよ」

「へえ。クラスメイトの誘いより、後輩くんを優先しちゃうんだ」


 いやみな言い方にカチンときて、わざと大きめの声で先輩を覗きこんだ。


「先輩、この人からも誘われてたんですか?」

「……うん」

「でも、俺を優先してくれたんですね? 嬉しいです。ありがとうございます、桐子さん」

「ちょっ、須藤くん!」

「いつもみたいに、小春くんって呼んでくださいよ」


 そう言って、クラスメイトと先輩の間に立つように屈んで、先輩の耳元に口を寄せたら、顔を真っ赤にしていて、かわいかった。

 クラスメイトの人は舌打ちして行ってしまった。


「すみません、先輩。つい、やりすぎちゃいました」

「なにが“つい”なの、もう……。まあ、いいけど。ほら、行こ。時間なくなっちゃうよ。……小春くん」

「……! はい!  行きましょう、桐子さん」


 その日の公開時間ぎりぎりまで先輩とまわって、終わったあとには一緒に花壇の手入れをした。

 遅くなったから、自転車で先輩の家の近くまで送っていった。
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