契約外の初夜で、女嫌い弁護士は独占愛を解き放つ~ママになっても愛し尽くされています~
 今、家の中にはたくさんの段ボール箱が積んである。
 私たちは、来月引っ越す予定なのだ。


 引っ越しを決めた一番の理由は、北原さんが大きく減刑されてしまったこと。
 当初、彼女は十日間勾留されたのちに起訴され、公判請求も受け入れられた。
 その内容は、ストーカー行為と傷害罪。
 ところが、裁判で心神耗弱という審判が下りてしまい、通常よりも随分と軽い四か月の懲役刑になったのだ。


 傷害といっても、侑李さんが負った怪我の度合いは軽傷になる。
 そして、最近のストーカー行為についてはほとんど証拠がなかった。
 接近禁止命令を出していたことにより、北原さんはずっと大人しくしていたようで、本人の証言通りなら『櫻庭さんを尾けたのは三回くらい』ということになる。
 私の動向を知っていたことは、うつ病を患っているらしい彼女の言動が一貫しないことから決定打にはならなかった。


 控訴をしても、恐らく判決が覆ることはない。
 そう判断した侑李さんは、北原さんのご両親の謝罪を受け入れた。
 涙ながらに土下座をした彼女のご両親を前に、彼はただ『もう二度と俺たちに関わらないようにしてください』とだけ言った。
 北原さん一家は、彼女のために父方の実家へ引っ越すそうだ。


 だから、私はもう大丈夫かと思ったのだけれど……。侑李さんは万が一のことを考えて、北原さんとの接点を完全になくすために引っ越しを提案してくれた。


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