契約外の初夜で、女嫌い弁護士は独占愛を解き放つ~ママになっても愛し尽くされています~
「あの場を乗り切って、適当にごまかそうと思ってたんだ。入籍が延びたとか、言い訳はあとでいくらでも考えようと……」


 そういう言い方をするのは、今は言い訳ができない状況だ……ということだろう。


「あのあと、なにかあったんですか?」


 察した私に、櫻庭さんが頭を抱えるようにこめかみを押さえた。


「思ったよりギャラリーに聞こえてたらしくて……瞬く間に話が広がって、俺が自席に戻る頃には所長にまで伝わってた」


 それは……なんというか、不運にもほどがある。
 確かに、エレベーターホールやフロアにはそれなりに人はいた。
 けれど、足を止めたり私たちのことをじっと見ていたりする人はいなかった。
 ちらちらと興味本位な視線は向けられていたものの、私は周囲にいた人たちに話の内容が聞こえていたとは思っていなかったくらいだ。


「正確に言うと、話を聞いてたのは浅間さん以外だとひとりらしいが……まあ話が広がったなら、そこはもう何人でも関係ない。しかも、所長には浅間さんが電話で話したらしくて……」
「要するに、言い訳しづらい状況になってしまった……と」
「そういうことだ。自業自得だし、これはもう言い訳のしようもない。辻山さんには関係ないことで、俺が巻き込んだだけだと重々わかってる」


 そこで言い淀むように口を閉じた姿からは、本当に困っているのが見て取れる。
 できれば力になりたい。
 深く考えるよりも先に、そう思っていた。

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