契約外の初夜で、女嫌い弁護士は独占愛を解き放つ~ママになっても愛し尽くされています~
「念のために試着を。サイズが合わないようなら店員に言ってくれ」


 辻山さんの返事も聞かずに女性店員を呼び、試着室へ案内するように頼む。
 ためらいの表情で連れていかれた彼女を見送り、他の店員にバッグや靴、パールのネックレスを出してもらうように告げた。


 五分も待たずに店員に声をかけられ、試着室へ向かう。
 そこには、さきほどのドレスを纏った辻山さんが所在なさげに立っていた。
 オフショルダータイプのAラインのドレスは上品で、淡いブルーが白い肌を彩るようだ。


「いいな。清楚な君によく似合ってる」


 素直な感想を口にすると、彼女の頬が朱に染まった。
 彷徨うように動いた視線を下げ、わずかに俯く。
 こんな言葉くらいで恥じらう辻山さんを前に、俺もつられてくすぐったいような感覚に包まれる。
 同時に、些細な言葉ひとつで頬を赤らめる姿に、庇護欲に似たものが湧き出した。


(もっと色々な顔を見てみたいな)


 ふと、そんな気持ちが芽生える。
 辻山さんのことをもっと知りたいと思ったのは、紛れもない本心だった。

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