契約外の初夜で、女嫌い弁護士は独占愛を解き放つ~ママになっても愛し尽くされています~
 もともと、彼女に対して好感を持っていた。
 あくまで家政婦と依頼人という立場と関係性を踏まえて……という意味に他ならないが、細やかな気遣いができるだけではなく、余計なことはしない。
 それでいて、業務上では痒いところに手が届き、俺が黙っていても数歩先を読んで仕事をこなしてくれる。
 控えめで優しく、けれど期待以上の結果を出す。
 つまり、相手をよく見て、相手が望む選択を取っているということだ。


 その上、俺の無理なお願いを聞いてくれた。
 辻山さんのこれまでの振る舞いや仕事ぶりだけでも、信頼は大きくなっていたのだ。
 好感度がどんどん上がり、さらにはプライベートでも会うようになった今、こんな風に思うのも自然なことなのかもしれない。


 たとえば、もっと照れた顔を見てみたいとか。
 当たり前のように向けられる笑顔を、もっと見せてほしいとか。
 怒った時や悲しい時はどんな顔をするのだろう……なんて考え始め、気づけば目の前の彼女をじっと見つめていた。


「あの……」


 控えめに動く唇が、まるで俺を誘うように見えたなんて……どうかしている。


「ああ、すまない」


 平静を装って「これにしよう」と言うと、辻山さんは困り顔ながらも観念したように小さく頷いた。
 バッグや靴も合わせ、俺が選んだものが彼女を着飾っていく。
 それが存外楽しくてもっと色々なものを買いたくなったが、今夜は当初の目的を果たすだけにしておいた。

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