こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。

これは絶対に返さないといけないもの

 聞き覚えのない言葉? 意味不明な西の言葉がジーナの口から出るとハイネは悲鳴のような声を思わず上げた。

「えっ? いまなんて言いました?」

 今の自分の言葉に気付いたのかジーナは慌てて口を手で塞ぎ思案に入った。

 しまった、とハイネもまた後悔する。

 私こそ西の言葉を習うべきであった。もうこれで彼は警戒心を抱き二度とあの扉を開けることはできない。

 意味は分からないまでも今の声をもうほとんど耳から流れ遠くに行ってしまった声の響きを思い出す。

 分かるのは、自分の名前であろうジーナという響きだけ、だがそんなものから何が分かるのだというのか?

「すまない。不意に西の言葉が出てしまった。向うの話ばっかりしていたからこうなったのかな。あっそれでさっきのところだけど、ただ私は家業を継げなかったと言っただけだったんだ。きょうだいが継ぐことになってね」

 緊張気味に語るジーナの表情をハイネはじっと観察した。これは誤魔化している、とすぐにわかった。

 嘘はついていない、が大事なことは伏せている。その伏せているものにこそ、あなた自身があるというのにとハイネは歯噛みするも、これ以上警戒されるのも話と関係の進展に支障が出ると判断しハイネは素直に受け取るふりをした。

 そういうのは、大の得意である。

「その事情がありましたから商人に弟子入りして砂漠を越えてこっちに来ようとしたわけですね」

「そうそうそういうことで。そこで中央の言葉を覚えてこちらに住もうとしていたけれど……」

 言い淀みながら声は消えていきそのジーナの表情は苦痛と罪悪感を伴ったものであり、それをハイネは耐えられず、繋いだ手を引きこちらに向き直させた。

「まだ話すその時でないのなら、いいのですよ」

 痛みが安らいでいくのをハイネは感じていた。

「その時が来たら、お話してください。大丈夫です。私にもまだ隠していることがあるのですから」

 安心した表情となったジーナは頷くも、その口はまた語りだした。

「……ツィロの話をしてもいいかな。こういう時だから彼の話を最後までしたいのだけど」

 求めに嬉しさを感じもちろんとハイネは目で返事をするとジーナはまた西を見ながら話した。

「旅立つときに私はツィロに借りたものをがあったんだ。それを返す約束をしている」

「それってもしかしてあの剣でしょうか?」

 ハイネは壁にかかっているジーナの剣に目をやる。
 東から中央ではまずお目にかかれない反りの強いものであり一目で異国の西のものだと分かるものもジーナを特徴づけているものであった。

「いや、それよりも村にとって大切なものがあって、これは絶対に返さないといけないものなんだ。だから持っていくときに酷く怒られてな、けれど必要だから無理矢理に持ってきたようなものでね。今も向うは怒っているだろうなと」

 その時ジーナは無意識にだが左頬を撫でた、がハイネはその動きが見える角度ではなかった。

 ヘイムでないのだから、見ることができなかった。

「戦争が終わってから返しに行くということですか?」

「そういうことだ。私の戦争とは借りたことから始まって返すことによって終わるといっていいかもしれないな。だからハイネたちとは終わるタイミングがズレてしまうことになる。私は終わったら帰らないと……」

 若干緊張していたハイネはそれを聞いてニヤニヤしだしジーナが不審な眼で見だした。

「もしかしてジーナ、延々とたのしそーに話をしていたのってあれですよねあれ」

「どれがあれなんだ?」

 ハイネは不安になりだしたジーナを尻目に嘲笑いながら言う。

「故郷の話を女に語った男の決まり文句って知っていますか?」

「今まで語ったことなんてないからわからない」

「本当に私で初めてですか? シオン様とかには?」

「ここまで詳しく語ったのは、ない」

「ああそうですか、へぇ、そうですか、へぇ」

 なんなんだと思いながらもハイネがなんとなく幸福そうなのを見てジーナはどこか満足感があった。

「っでその決まり文句はこうです。俺の故郷に来ないか? ですよ。どうです? 参りましたか?」

 ハイネの問いは、だが間すら生まれずに言下に降された。

「来なくていい。女子供じゃあの砂漠は越えられない」

「私より持久力が無い癖によく言えますね」

「あれは最初から一緒に走っていなくて」

「はいはい、いいですよ言い訳は。それで一人で、私を置いてあっちに帰ったあとどうするのですか? そのままあっちに残って……」

「そんなことあまり考えたことはないけど、そうなった場合は」

「こっちですよね?」

 ハイネがそう言いながら手を引くが、ジーナの身体は動かなかった。

「そっちかもしれないな」

「どこ、ですか」

 問われジーナは眼の前の床を指し示そうとするとハイネが懐に飛び込み、左手人差し指がその額に触れて、止まった。

「私を指定してどうするのですか?」

「それはハイネが来たからじゃないか」

「あなたが来たのではありません?ほらこの指、離れませんよね?」

 人差し指だけでなく額には五本の指が広がりハイネの前髪を別け隠れていた額を曝け出した。

「狭い額だな」

「誰と比べてですか?」

 誰だっけ? とジーナは分からないまま指先を額に乗せた。

「ここは私には広すぎて乗ることができないな」

「なにを逆なことをいっているのですか? あなたぐらい乗せられますって、戦争が終わったら移住してどうぞ。あっ指を戻す際は髪を元のように整えてくださいね」

 我に返りながらジーナは髪を元のように戻している最中に言った。

「未来の話をすると闇が笑うという言葉があるけれど、今日は散々に笑われたろうな」

「笑わせておけばいいのですよ。私は笑いませんし応援しますよ。共に中央を目指しその後の帰郷を」

「ありがとう。これでいいかな、ではとにかく私達は中央を求めて」

「……龍を求めてでしょう」

 手の下に隠れていたハイネの眼が光りその顔が違う人に見えるもジーナは答えた。

「そうなるな」
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