こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。
血で汚れた龍の護衛
攻撃の時刻に合わせて進行していた儀式は一気に最高潮に達する。
ソグ僧たちの祈りの声が一斉に合わさり声は波となり中央へ天へと届くのであろうか。
前線の戦況にどうか良い効果を……と傍らで聞きながらシオンは戦況の最新報告を目にした。
天候はこの時期には珍しいぐらいの快晴続きであるため支障なく東西南の三軍は合流時刻に次々と到着したとのこと。
中央側に再三にわたって降伏勧告を行うも全て拒絶。
「そちらこそが偽龍側であり正統はこちらであることは明白である」
と帰って来る文書にはこのをような一文が太字で強調されていた。
「攻撃する他に解決する方法は無い」
龍の宰相であるマイラ卿の意見にソグ大僧正も首を縦に振るしかなくそしてヘイムもそれを肯定した。
しかしヘイムは言明にはしていないとシオンはそのことは気になった。
あらゆる会話を思い出してみてもヘイムは自分が正統であるとは言った記憶が無い。それどころか中央の龍については、そう中央の龍と昔から変わらずにそう呼んだままである。
当然偽龍とも偽物といった悪口を耳にしたことは無い。
ソグ撤退という死と隣り合わせの辛酸を舐めたというのに、彼女から中央の龍への恨み言の類は滅多に聞かない……あたかもあれは自然による災厄であったかのような態度をとり続けている。
同様にシオン自身も中央の龍については非難の言葉を口にすることもあるが、偽龍とあからさまに言ったことは無い。
思えば、もないがヘイムは私的な空間だと自身が龍身であることを表に出すことは無かった。
そう扱うものの前では龍身として応対したが私やそれにジーナの前では……またあの男か、あなたは、いいからあっちに行って。
どうして今更そのようなことを気にしなければならないのかとシオンは頭を振る。
ヘイムは正真正銘の龍とならなければならないのだ。龍に選ばれたからにはそうでなくてはならない。あなたでなければならない。
こちらが選択されたということは必然的にあちらが偽物とならなくてはならない。まさかこちらが偽物だなんて、ない。
万が一そうであったとしたらどうしてあのタイミングでヘイムは龍身となったのだ?
それは一族皆殺しという狂気の粛清を行おうとした中央の龍が誤りだという大いなる龍の意思の現れの他にないではないか。
こちらが善であちらが悪とこれ以外にあるわけがない。いちいち考えるのも馬鹿らしく時間の無駄だ、とシオンは一人合点する。
そうとはいえこのことについて迷っている人が多いと言うのは事実であろう。
特にあの三巨頭による最終会談によって出された偽龍の処置についての指示書。
最高機密ともいえるあれの存在は自分ですら知らない。私で知らないぐらいだからあれの中身を知るのは現地のバルツと数名の軍師ぐらいか?
自分が知る理由は無いとはいえシオンは気になった。倒せ以外のことが書いてあったら厄介であろう。
決定に時間が掛かったということは結論に迷いが生じるはずである。両方の良いとこどりをし厳命してはいないだろう。
つまりは最終的には現場に丸投げでありバルツに重荷を背負わせるはず。
バルツ……とシオンはあの篤信家の苦悩する顔を想像し憂鬱な気分となった。
彼自身は手を下すことはないであろうがその意思決定の過程のひとつひとつに苦しみを味わうであろうと。
言われても簡単に割り切れないないだろう。手紙を受け取り、指示書を読み、考える、誰にこの役割を……押し付けるか。
そんな都合の良い存在は、とシオンはすぐに一人の男の顔がまた頭の中で浮かんだ。
あの不敬者のジーナか。あれなら簡単に手を下せる……いや、本当にそうなのか? シオンは何かに引っかかった。
なぜ彼ではいけないのか? と思うと今度はヘイムの姿が思い浮かぶ。
もしもこの想像が当たっているとしたら龍の護衛を務めたものが龍を手に掛けるものとなるが、このようなことが果たして……
「許されるのでしょうか?」
呟きながら無意識に立ち上がるとシオンの背筋には冷たい汗が流れ痒みが発生する。
偽龍の処置には反対はしないというのにどうしてこんなことを口にしたのか。
客観的に考えて彼以外いないのである。龍に手を掛けられるものは。他のものには任せられない。
だが同時にシオンは逆のことも思った。彼にその役を任せてはならないと。それをしてしまったら、そんなに汚れてしまったらもう二度と龍の護衛には……
うん? そのことに気を遣う必要がどこにあるというのか? とシオンは座りなおした。いい加減こんなことを考えるべきではない。
もう全ては始まり進行しているのだ。こちらからは何も変更を届けることはできない。ましてやこんなことに関しては。
ともかく何を差し置いてもこのことをヘイムに伝えることはできない、とシオンは決心した。
またこのことに関しては断固とした箝口令を出すしかないとも。
この件に関する表彰や恩賞は表だってすることは、不可だとするほかないと。
ヘイムにはただ一つの言葉でだけ報告する。最善の対処で済みませたのことです、と。
それだけが自分に出来ることなのだと言いきかせながらシオンは報告書に目を通しだし心を無にした。
ソグ僧たちの祈りの声が一斉に合わさり声は波となり中央へ天へと届くのであろうか。
前線の戦況にどうか良い効果を……と傍らで聞きながらシオンは戦況の最新報告を目にした。
天候はこの時期には珍しいぐらいの快晴続きであるため支障なく東西南の三軍は合流時刻に次々と到着したとのこと。
中央側に再三にわたって降伏勧告を行うも全て拒絶。
「そちらこそが偽龍側であり正統はこちらであることは明白である」
と帰って来る文書にはこのをような一文が太字で強調されていた。
「攻撃する他に解決する方法は無い」
龍の宰相であるマイラ卿の意見にソグ大僧正も首を縦に振るしかなくそしてヘイムもそれを肯定した。
しかしヘイムは言明にはしていないとシオンはそのことは気になった。
あらゆる会話を思い出してみてもヘイムは自分が正統であるとは言った記憶が無い。それどころか中央の龍については、そう中央の龍と昔から変わらずにそう呼んだままである。
当然偽龍とも偽物といった悪口を耳にしたことは無い。
ソグ撤退という死と隣り合わせの辛酸を舐めたというのに、彼女から中央の龍への恨み言の類は滅多に聞かない……あたかもあれは自然による災厄であったかのような態度をとり続けている。
同様にシオン自身も中央の龍については非難の言葉を口にすることもあるが、偽龍とあからさまに言ったことは無い。
思えば、もないがヘイムは私的な空間だと自身が龍身であることを表に出すことは無かった。
そう扱うものの前では龍身として応対したが私やそれにジーナの前では……またあの男か、あなたは、いいからあっちに行って。
どうして今更そのようなことを気にしなければならないのかとシオンは頭を振る。
ヘイムは正真正銘の龍とならなければならないのだ。龍に選ばれたからにはそうでなくてはならない。あなたでなければならない。
こちらが選択されたということは必然的にあちらが偽物とならなくてはならない。まさかこちらが偽物だなんて、ない。
万が一そうであったとしたらどうしてあのタイミングでヘイムは龍身となったのだ?
それは一族皆殺しという狂気の粛清を行おうとした中央の龍が誤りだという大いなる龍の意思の現れの他にないではないか。
こちらが善であちらが悪とこれ以外にあるわけがない。いちいち考えるのも馬鹿らしく時間の無駄だ、とシオンは一人合点する。
そうとはいえこのことについて迷っている人が多いと言うのは事実であろう。
特にあの三巨頭による最終会談によって出された偽龍の処置についての指示書。
最高機密ともいえるあれの存在は自分ですら知らない。私で知らないぐらいだからあれの中身を知るのは現地のバルツと数名の軍師ぐらいか?
自分が知る理由は無いとはいえシオンは気になった。倒せ以外のことが書いてあったら厄介であろう。
決定に時間が掛かったということは結論に迷いが生じるはずである。両方の良いとこどりをし厳命してはいないだろう。
つまりは最終的には現場に丸投げでありバルツに重荷を背負わせるはず。
バルツ……とシオンはあの篤信家の苦悩する顔を想像し憂鬱な気分となった。
彼自身は手を下すことはないであろうがその意思決定の過程のひとつひとつに苦しみを味わうであろうと。
言われても簡単に割り切れないないだろう。手紙を受け取り、指示書を読み、考える、誰にこの役割を……押し付けるか。
そんな都合の良い存在は、とシオンはすぐに一人の男の顔がまた頭の中で浮かんだ。
あの不敬者のジーナか。あれなら簡単に手を下せる……いや、本当にそうなのか? シオンは何かに引っかかった。
なぜ彼ではいけないのか? と思うと今度はヘイムの姿が思い浮かぶ。
もしもこの想像が当たっているとしたら龍の護衛を務めたものが龍を手に掛けるものとなるが、このようなことが果たして……
「許されるのでしょうか?」
呟きながら無意識に立ち上がるとシオンの背筋には冷たい汗が流れ痒みが発生する。
偽龍の処置には反対はしないというのにどうしてこんなことを口にしたのか。
客観的に考えて彼以外いないのである。龍に手を掛けられるものは。他のものには任せられない。
だが同時にシオンは逆のことも思った。彼にその役を任せてはならないと。それをしてしまったら、そんなに汚れてしまったらもう二度と龍の護衛には……
うん? そのことに気を遣う必要がどこにあるというのか? とシオンは座りなおした。いい加減こんなことを考えるべきではない。
もう全ては始まり進行しているのだ。こちらからは何も変更を届けることはできない。ましてやこんなことに関しては。
ともかく何を差し置いてもこのことをヘイムに伝えることはできない、とシオンは決心した。
またこのことに関しては断固とした箝口令を出すしかないとも。
この件に関する表彰や恩賞は表だってすることは、不可だとするほかないと。
ヘイムにはただ一つの言葉でだけ報告する。最善の対処で済みませたのことです、と。
それだけが自分に出来ることなのだと言いきかせながらシオンは報告書に目を通しだし心を無にした。