こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。
迫力が違いますね
微かに聞こえる音で鼓膜が叩かれ痛みすら走る……ことはなくジーナの両掌は耳から離れた。
「えっ? そっち?」
「そっちもどっちもこっちですよこっち。どこに行こうというのです? 戻って来て下さい」
「むしろもう一度言ってくれないか? 聞き違いかもしれない。なんでこの場でハイネが出て来るんだ?」
腑にまるで落ちず逆に聞き返すとノイスは呆れた……と長く大きな溜息を鼻から放った。
「これだ。ほらやっぱりズレている。しっかりと聞き、それから自覚してください。ハイネさんと出会ってからあなたは暗くなった。これが事実であり俺としてはこうとしか考えられない」
どんな勘違いをしているのかとジーナは口を開こうとすると、言葉でもってさえぎってきた。
「いいですいいです隊長の言わんとしていることは全部わかるし、反論も無駄だということが。よって俺は一方的に話します。あなたは龍身様に会って云々と言いたいのでしょう。無信仰であったのに信仰心を抱いてしまったとか……」
そうではない、とジーナ心の中で呟くと同時に考える、ではその心は何だというのか?
「だけどそんな面倒で小難しい話なんて俺は信じない、信じられないという気持ちが強いです。俺が信じるのは信じるに値するもの、つまり綺麗でいい女に出会ってしまって気持ちが良くなってしまった、これを俺はいつも信じています。今も、昔も、変わらず、ずっと」
こんな軽薄なことを卑しげさを一片も感じさせずに語るこの男はいったい? とジーナはたじろいだ。
「信じなくていい」
「ほら、その態度、だからこじれる。信じるべきです。信じるものは救われます。俺の言葉だけをどうか信じてください、あるいは心のどこか片隅に置いておいてください。いつの日かこの言葉が叫ぶでしょうから」
「なんで叫ぶんだ。あのなノイス、私とハイネはな」
訴えようとするもノイスは勝手に話し出す。
「俺が思うにですね、ここまできましたら隊長はハイネさんと結婚することですよ」
「今度もいきなり何を言っているんだ」
「隊長の立場だったら誰だってそれをやりますよ。世界中の男という男がその立場に立たせたら全員が全員同じことをします。やらないほうがおかしい、あまりにもおかしい、おかしくておかしい」
「だから何を言っているんだお前は。落ち着け」
「その世界で唯一それをしないという男が、あなたということです。逆説的に言えば、そうであるからこそあなたは選ばれたとでもいうのでしょうかね。不思議なものだ。望まないものが選ばれるものになるだなんて、これは一種の摂理に反した法則の過ちでしょうね」
「お前がいったいなにを言っているのか私にはさっぱり分からない。望まないものこそ選ばれるとか、もっと論理的に話してくれ」
「あなたみたいに非論理が服を着て歩いている存在者がそういうことを言うと笑えますね」
「こっちの話を聞いているのならちゃんと問いに答えろ」
「隊長とハイネ氏が結婚したら万事解決する。隊長の苦悩と暗さは単純にこれなのです」
「何も解決しないあのな」
ジーナはノイスに歩み寄るが、ノイスはノイスでジーナが進めば進むほどに引き、決して間合いに入らないようにしている。
この男は昔から間合いの取り方が上手かったな、とジーナは思った。
「俺は隊長と議論をしたいわけでも説得をしたいわけでもありません。あなたにはそれが通じないことは分かっていますし第一そんな柄でもない。ただあなたは世間一般的な倫理感覚が欠けておりますから」
「お前にだけは言われたくない!」
ジーナの罵倒にノイスは微笑みながら返した。
「俺は世間的な感覚はありますよ。いけないことだと分かっていながらやってしまうのです」
「より悪質だろ!」
「そうでもないですよ、話を戻しましょう。隊長は本人が気付いてはいないものの心の奥底ではずっと罪悪感を抱き続けている。出会った頃からずっと想い続けていることを。そのことについて相手が気付いており、隊長からの言葉を待っているものの、待てど暮らせど隊長が自らが言い出せないことを」
主語は、どっちだ? とジーナは一瞬自分でも迷ったがすぐさま我に返った。
ノイスがあのことを分かっているはずがない。絶対に有り得ない、自分だって分からないのだから。
「私がハイネに求婚をして欲しいというのか?」
投げ遣りに言うとノイスは一歩近づいた。
「明らかにお嫌そうですね。だったらなおさら良いでしょう」
「どこをどう考えたらこれが良いことになる」
「そこまでお嫌ならそれが贖罪になるんじゃないですかね? 最も苦しむ方法がそれであるのならそれを選ぶ、これはとても隊長向けな気がしますがどうです?」
「断る」
ジーナは断言するもノイスの表情が変わらず微笑んだまま。なんでそんなに自信満々なのだ?
「なんだその顔は。あのなノイス、私がお前の言うようにそういった申し出をしたところであっちは首を振る。絶対に振る……命を賭けていいが首を横に振るからな」
「間違いなく振りますね」
「そうだろ!」
久しぶりに意見が合いジーナは声をあげた。これで終わりだと。だがノイスは呟いた。
「一度目はですね」
「えっなに?」
「目を瞑ってください。そうしたら見えるはずです隊長の申し出に二度首を振る彼女の姿が」
ノイスが瞼を閉じながら言うのでジーナも同じく視界を閉じ闇を睨むと確かにそれが浮かんで見えた。
「うむ、間違いない姿だな。間違えても首は縦には振らない」
「けれども隊長がもう一度頼んだと想像してみてください。するとどうです? 見えますよね? 嫌な眼をしながらも縦に首を小さく振る彼女の姿が」
ジーナにも、見えた、が、瞼を大きく開きそんな幻想を陽の光で消失させながら大声で以っても残滓をかき消した。
「そんなわけがない! 私は何も見ていない! だいたい私が二度頼むような男ではない」
「いまの俺の言葉を聞いたからには二度頼むことになりますよ」
「未来予知みたいなことを言うんじゃない」
「それとハイネさんは隊長が二度頼むと信じていますから大丈夫です。どうしてなんて聞かないでください。彼女はそういうタイプの女だと思いません?」
思える、とジーナの方こそ首を縦に振った。
「それにしてもなんでそんなにめんどくさいんだ」
「しょうがないですよ。相手のあなたも同じぐらいめんどくさいのですから」
「そっそんなことはない! そもそもこれは私達の妄想だろうが。私は見えていないがノイスが二度目で首肯するなんて空想以上のなにものでもない。ハイネは二度目も断る、だからこれを前提にしての話なんてはじめから何の意味もない」
「なら試されてみてはどうでしょう?」
ジーナはノイスの顔が普段とまるで変わらないところに、悪魔さを感じ慄然とした。
「試しでそんな大事なことをするやつがいるものか!」
「隊長なら許されますよ。頷かれたら引っ込みがつかなくなるからやりたくない、というところですよね? 絶対に起こらないと主張しているのにそこを気にするなんて、おかしいです。違うというのなら、ぜひ試してみましょう」
「だからそんな恐ろしいことを普通な様子で言うな。人の心をなんとなくお試しで苦しめてどうする」
「大丈夫ですよ。女はそうやって心を激しく揺さぶられるのが好きですから良いのです。もしも極端な方向に転がり落ちてもそれを珍しいスリルだと割り切りますし、それにどうしたって結局は元の位置に戻りますから」
こんなことを言っているのにノイスのその表情は相変わらず普段通り過ぎた。
こいついつもこんなことを普段考えているのだろうか? ……そうなのだろう。
「いい加減しろ。そんな気持ちでそういうことをされたらハイネが可哀想だ」
ジーナが言うとノイスは微笑んだ。おっ表情が変わったと思うと同時にあれ、いま、笑うところか? とジーナは困惑しているとノイスは言った。
「可哀想にしている男が言うと迫力が違いますね」
「えっ? そっち?」
「そっちもどっちもこっちですよこっち。どこに行こうというのです? 戻って来て下さい」
「むしろもう一度言ってくれないか? 聞き違いかもしれない。なんでこの場でハイネが出て来るんだ?」
腑にまるで落ちず逆に聞き返すとノイスは呆れた……と長く大きな溜息を鼻から放った。
「これだ。ほらやっぱりズレている。しっかりと聞き、それから自覚してください。ハイネさんと出会ってからあなたは暗くなった。これが事実であり俺としてはこうとしか考えられない」
どんな勘違いをしているのかとジーナは口を開こうとすると、言葉でもってさえぎってきた。
「いいですいいです隊長の言わんとしていることは全部わかるし、反論も無駄だということが。よって俺は一方的に話します。あなたは龍身様に会って云々と言いたいのでしょう。無信仰であったのに信仰心を抱いてしまったとか……」
そうではない、とジーナ心の中で呟くと同時に考える、ではその心は何だというのか?
「だけどそんな面倒で小難しい話なんて俺は信じない、信じられないという気持ちが強いです。俺が信じるのは信じるに値するもの、つまり綺麗でいい女に出会ってしまって気持ちが良くなってしまった、これを俺はいつも信じています。今も、昔も、変わらず、ずっと」
こんな軽薄なことを卑しげさを一片も感じさせずに語るこの男はいったい? とジーナはたじろいだ。
「信じなくていい」
「ほら、その態度、だからこじれる。信じるべきです。信じるものは救われます。俺の言葉だけをどうか信じてください、あるいは心のどこか片隅に置いておいてください。いつの日かこの言葉が叫ぶでしょうから」
「なんで叫ぶんだ。あのなノイス、私とハイネはな」
訴えようとするもノイスは勝手に話し出す。
「俺が思うにですね、ここまできましたら隊長はハイネさんと結婚することですよ」
「今度もいきなり何を言っているんだ」
「隊長の立場だったら誰だってそれをやりますよ。世界中の男という男がその立場に立たせたら全員が全員同じことをします。やらないほうがおかしい、あまりにもおかしい、おかしくておかしい」
「だから何を言っているんだお前は。落ち着け」
「その世界で唯一それをしないという男が、あなたということです。逆説的に言えば、そうであるからこそあなたは選ばれたとでもいうのでしょうかね。不思議なものだ。望まないものが選ばれるものになるだなんて、これは一種の摂理に反した法則の過ちでしょうね」
「お前がいったいなにを言っているのか私にはさっぱり分からない。望まないものこそ選ばれるとか、もっと論理的に話してくれ」
「あなたみたいに非論理が服を着て歩いている存在者がそういうことを言うと笑えますね」
「こっちの話を聞いているのならちゃんと問いに答えろ」
「隊長とハイネ氏が結婚したら万事解決する。隊長の苦悩と暗さは単純にこれなのです」
「何も解決しないあのな」
ジーナはノイスに歩み寄るが、ノイスはノイスでジーナが進めば進むほどに引き、決して間合いに入らないようにしている。
この男は昔から間合いの取り方が上手かったな、とジーナは思った。
「俺は隊長と議論をしたいわけでも説得をしたいわけでもありません。あなたにはそれが通じないことは分かっていますし第一そんな柄でもない。ただあなたは世間一般的な倫理感覚が欠けておりますから」
「お前にだけは言われたくない!」
ジーナの罵倒にノイスは微笑みながら返した。
「俺は世間的な感覚はありますよ。いけないことだと分かっていながらやってしまうのです」
「より悪質だろ!」
「そうでもないですよ、話を戻しましょう。隊長は本人が気付いてはいないものの心の奥底ではずっと罪悪感を抱き続けている。出会った頃からずっと想い続けていることを。そのことについて相手が気付いており、隊長からの言葉を待っているものの、待てど暮らせど隊長が自らが言い出せないことを」
主語は、どっちだ? とジーナは一瞬自分でも迷ったがすぐさま我に返った。
ノイスがあのことを分かっているはずがない。絶対に有り得ない、自分だって分からないのだから。
「私がハイネに求婚をして欲しいというのか?」
投げ遣りに言うとノイスは一歩近づいた。
「明らかにお嫌そうですね。だったらなおさら良いでしょう」
「どこをどう考えたらこれが良いことになる」
「そこまでお嫌ならそれが贖罪になるんじゃないですかね? 最も苦しむ方法がそれであるのならそれを選ぶ、これはとても隊長向けな気がしますがどうです?」
「断る」
ジーナは断言するもノイスの表情が変わらず微笑んだまま。なんでそんなに自信満々なのだ?
「なんだその顔は。あのなノイス、私がお前の言うようにそういった申し出をしたところであっちは首を振る。絶対に振る……命を賭けていいが首を横に振るからな」
「間違いなく振りますね」
「そうだろ!」
久しぶりに意見が合いジーナは声をあげた。これで終わりだと。だがノイスは呟いた。
「一度目はですね」
「えっなに?」
「目を瞑ってください。そうしたら見えるはずです隊長の申し出に二度首を振る彼女の姿が」
ノイスが瞼を閉じながら言うのでジーナも同じく視界を閉じ闇を睨むと確かにそれが浮かんで見えた。
「うむ、間違いない姿だな。間違えても首は縦には振らない」
「けれども隊長がもう一度頼んだと想像してみてください。するとどうです? 見えますよね? 嫌な眼をしながらも縦に首を小さく振る彼女の姿が」
ジーナにも、見えた、が、瞼を大きく開きそんな幻想を陽の光で消失させながら大声で以っても残滓をかき消した。
「そんなわけがない! 私は何も見ていない! だいたい私が二度頼むような男ではない」
「いまの俺の言葉を聞いたからには二度頼むことになりますよ」
「未来予知みたいなことを言うんじゃない」
「それとハイネさんは隊長が二度頼むと信じていますから大丈夫です。どうしてなんて聞かないでください。彼女はそういうタイプの女だと思いません?」
思える、とジーナの方こそ首を縦に振った。
「それにしてもなんでそんなにめんどくさいんだ」
「しょうがないですよ。相手のあなたも同じぐらいめんどくさいのですから」
「そっそんなことはない! そもそもこれは私達の妄想だろうが。私は見えていないがノイスが二度目で首肯するなんて空想以上のなにものでもない。ハイネは二度目も断る、だからこれを前提にしての話なんてはじめから何の意味もない」
「なら試されてみてはどうでしょう?」
ジーナはノイスの顔が普段とまるで変わらないところに、悪魔さを感じ慄然とした。
「試しでそんな大事なことをするやつがいるものか!」
「隊長なら許されますよ。頷かれたら引っ込みがつかなくなるからやりたくない、というところですよね? 絶対に起こらないと主張しているのにそこを気にするなんて、おかしいです。違うというのなら、ぜひ試してみましょう」
「だからそんな恐ろしいことを普通な様子で言うな。人の心をなんとなくお試しで苦しめてどうする」
「大丈夫ですよ。女はそうやって心を激しく揺さぶられるのが好きですから良いのです。もしも極端な方向に転がり落ちてもそれを珍しいスリルだと割り切りますし、それにどうしたって結局は元の位置に戻りますから」
こんなことを言っているのにノイスのその表情は相変わらず普段通り過ぎた。
こいついつもこんなことを普段考えているのだろうか? ……そうなのだろう。
「いい加減しろ。そんな気持ちでそういうことをされたらハイネが可哀想だ」
ジーナが言うとノイスは微笑んだ。おっ表情が変わったと思うと同時にあれ、いま、笑うところか? とジーナは困惑しているとノイスは言った。
「可哀想にしている男が言うと迫力が違いますね」