こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。

せめて心の中では認めて

 肘鉄を喰らわせるもハイネは些かも動じない。これはそういう女だとジーナはどうしてか安心した。

「会話の順序がおかしくありません? それはもうちょっと後に聞くことですよ」

「……そうか。じゃあいいが、それならなんでここにいるんだ?」

「しばらく立ち止っていましたがなにか考え事でもしていました?」

「いきなりこれだ。私の質問に答えてくれ」

「だって下らないことを聞くんですもの。なんでここにいるんだなんて、そんなの一緒に歩いてきたからに決まっているじゃないですか。私が空から落ちてきたら地中から出てくるわけないですってば」

「私は一緒に歩いた覚えはないぞ」

「より正確に言いますと後ろを歩いていましたね。俗に言う三歩後ろを歩いたということです」

「すると尾行か?」

 ジーナが語気を荒げるとハイネは笑顔で受け流す。

「はい尾行です。ふふっ怪しく言うとそうなりますけど気になりません? 知り合いが気難しい顔をしてどこか行こうとしているなんて。だからついつけてしまったわけです」

 邪気なく白状しているのを聞くとジーナは自己を再確認しだした。

 本当にハイネは私に対して悪意を抱いていないかもしれない。

 いまのいままでも彼女は自分に対しては親切にしてくれた……変なことをしたりしてきたせいで妙なことになったりもしたが、基本的にハイネは自分に関してはありがたい存在であることに違いは無い。

 こんな人を相手に疑わしく怪しいとそんな心で以って対応をするのは間違いであり、情けないことではないだろうか?

 そんなことをしては……ジーナはハイネをまた見つめた。ハイネも見返しその茜色の瞳を真っ直ぐに合わせる。

 曇りなく鮮やかなその色彩を見るとジーナはやはりこの女は疑わしいと考えをすぐに戻し確信を深めた。

「ハイネ、私に何か隠し事をしてはいないか?」

「それはもういっぱいいっぱいに隠し事をしていますよ」

 こっちがこんなに疑って聞いているのに嘘や誤魔化しを一切しないその返しにジーナはある意味で脅威を覚えるも、ハイネは平然としながら追撃してきた。

「あなたのお疑い通りに私はジーナに対して沢山の隠し事があります。ありますとも、認めます」

 ハイネは言いながら一歩近づこうとすると、ジーナは後ずさりをした。だからか二歩目と同時にハイネはジーナを後ずさりさせないためにその手を、取った。

 追い詰めようとしているのに追い詰められている。

「あなたが私に問うというのならば、だったら私も聞いちゃいますね。それが公平ですもの。聞きますよ、あなたも私に隠し事をいっぱいしていますよね」

 逆流するが如くに記憶が、いつも封印しているはずの記憶が男の頭の中を流れていく。語れない、この世に出してはならない、心と風景。

 その逆流の行きつく先は、水源のようにそこから始まりそこで終わったと言える点は、そこに辿り着くとしたら……私は……私は……

「すごく、ドキドキしていますね。こんなに緊張するぐらいの秘密を持っている癖に、私の隠し事を問おうとするなんて、ズルくありませんか? だからこんな仕返しをうけてしまうのですよ」

 この女はどこまで知っている……いやどこまで迫ろうとしているのだろう。私の中に入って……なにがしたいのか。

「私には秘密を喋れと言っているのですよね? そうですよジーナ。あなたの予感通り私はあなたを不審に思い尾行しました。はい、バラしましたよ。満足しましたよね? あなたの疑いが立証できて、気持ちいいでしょう? やったねジーナ!」

 足の位置も手の位置も身体の位置も顔の位置も前にも後ろにも動いていないというのにジーナにはハイネが一気に距離を詰めているとしか感じられない。

「今度はそっちが教えてくださいよ」

 声は大きくもまた小さくもなっていないのに、近づきよく聞こえる。

「あなたは何をしようとしているのですか?」

 手首を掴むハイネの手はそこへの力が消え、中へと入り、掴む。ジーナは自分のなかの何かが捉えられたと感じる。

「私には話せと聞くのに自分のことは話さないっておかしいですよね?あなたは、いっぱい……いっぱいに……私に何も語りませんし見せもしません。そんなに私には話したく、ないのですか?」

 問いから訴えへ好奇心から怒りへとその心が変わっていくのを見つめながらジーナは考える。

 もしも話したとしたら……ここで話したら……私はいったいに……どうなってしまうのか……男は身体が浮くような感覚に包まれだしその変化に気付くかのようにハイネが口を開く。

「もちろん話しても良いですし。俺には秘密なんてない、って隠していいんですよ。あるいは……あるいは……その……嘘を吐いたって」

 目が覚めるようにしてジーナの足は地に着きハイネの手を引き、身体を顔を近づけさせた。

「私はハイネに嘘を吐きたくない」

 紅い夕陽をジーナは見る。そのハイネの瞳に宿った色をあの日の景色を重ねながら、見た。

 その色は一瞬瞳の中で燃え上がるように色を走らせ、やがてすぐに元の色へと帰っていった。

「なんで私には嘘を吐きたくないんですか?」

 帰着点には嘲る声と皮肉そうな表情がいた。そんなことは分からないとジーナは口にせずに思った。

「それってあなた的に誠実ってこと? まぁそう考えているでしょうけども、でもごめんなさい。私にはその感覚は分かりませんね。そんなの子供っぽくてイヤです」

「私は子供っぽいところがあるから、まぁ」

「はい。そこは同意します。なんだ、その自覚ってあったんですね。別に嘘を吐いてもいいじゃないですか。真実ってそんなに面白いものではないですし。嘘は嘘として受け止めるのも楽しいことではありますよ」

「私はそういうのが嫌だし、それにハイネは私が嘘を吐いているとすぐに見破るだろうから」

「それはもう簡単に分かりましょう。別にこれは私だけが分かるということではありませんよ。ジーナってほら子供っぽいから嘘を吐いているってすぐに分かりますし。けど今のは多くの人がやるであろう、俺は隠していることなんて無い!と大声で言い切ればこちらはそれ以上は追求しませんし、これが手っ取り早く片付くし楽ですよ。それなのにそれをしないってのが実にあなたらしいですし、まさかあなたのテクニックですか?」

「なんだそのテクニックというのは。そんなことをして私にいったい何の得があるんだ?」

 聞かれるとハイネはしばし沈思しそれから身体を傾かせながらジーナを下から覗き込むようにしながら、答えた。

「……さぁ? 私にはまるで分りません。ちっとも分かりません」

 嘘を、ついているとジーナは珍しくハイネの言葉が理解できた。

 だが嘘だとは分かるものの、その理由は分からず尋ねもしなかった。

「けどあなたはそうするのが正解かもしれませんね。嘘がつけないし下手という分かりやすく悟られやすい心を持っている癖に、なんでかどこか捻じくれて複雑化している心があなたですからね。ここでバレバレな誤魔化しを覚えたらこれはもう大迷惑でしょう。これ以上面倒な人にならないでくださいね」

 面倒? それはこちらの台詞だと返そうとすると微笑むハイネの顔が目に入り、口が閉じ言葉が止まる。

「あなたは隠し事をいっぱい抱えていても私はあなたの言葉を信じていますから」

「そうか……」

 ジーナは言い、ハイネも言った。

「はい、そうです」

 なにがそうかで、なにがそうですなのか、言った自分もハイネの答えも意味が不明のままジーナは自然に頷きそうになる首を慌てて横に振った。

 縦に振ったら負けだとでも?

「あの、言葉にしなくてもいいですが、せめて心の中では認めたらどうです?」

「なにが?」
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