こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。
世界の究極的な関係性
龍の休憩所の頂上にある祭壇所及びその広場。
その長い階段は許可なきものは昇ることができない。
もしも武器を携え無断で昇れば龍の力が働き誰もが途中で膝折れ跪いてしまう。
しかし例外といえるものもおり、龍の騎士のみは事前許可なく武器を携行し行き来ができる。
一つの使命である龍を護るために、龍に近づくその全てを討てる力の行使を許可されているために。
階上からはソグ僧が足早で降りて来ている。この時間帯の儀式が終わったのだろう。
スケジュールではこのあとに龍身から時間が空く、休憩時間である。
その時間帯に先の件を依頼すれば。
「シオン嬢? いかがなされた」
見上げるとそこにルーゲン師がいた。ソグ高僧の衣装をつけ、一人ゆっくりと降りて来るルーゲンを見ながらシオンは思う。
どうしても不愉快だな、と。改めてこうも思う。なんでここまで腹が立つのだろうか。
「龍身様に調査の件で依頼したいことがありましてね」
口中が粘つき引っ掛かる気持ち悪さのなかシオンは答えた。
「例の秘密の仕掛けというものの調査ですか。しかしあのような広場のどこにあるというのか……」
反対はしないが疑惑で首を傾けるルーゲンを見ながらシオンも首を傾げるのを我慢しながら想像する。本当にどこにあるのやら。
階段を登り切ると祭壇所へ向かう広場があるが、床と壁以外何も無く限りなく見通しが良い空間なのである。
「壁を調べると言いましてもあの壁の高さと厚さでは秘密の扉を設けることなどできませんし、ならば床しかございませんが、床に関しては儀式が始まってから我々ソグ僧が毎日掃除をし、磨き上げ、更には床づきその足、膝、肘、掌、額を床に当てているのです。それこそ毎日場所を変え広場中の床で我々の手が触れていないものは一切ない、と断言できるほどに僕たちの身体触れている。それが龍の広場なのですよ」
そのことをシオンは承知していた。
ソグ僧ならほんの些細な異変や不審な点があるのなら必ずそれを発見し放置はしない。
もう儀式が始まってから日にちも経っている。そんな中でハイネが少し捜しただけですぐに見つかるような何かがあるとは到底思えない。
「ルーゲン師の仰られていることはもっともでございます。あなた方ソグ僧ですら見つけられないものを私達がちょっと見て分かるとは想像ができません……ですが広場はそうでしょうが祭壇所内はどうでしょうか?」
柔和な表情であったルーゲンの顔が険しくなり、上段から睨んでくるような眼つきにすら見えた。
「……祭壇所は神聖にして不可侵であります。古来より中に入れるものは龍身様とその龍の嫁あるいは婿のみであります」
「ええ分かっています。ですが清掃と荷物の搬入の際は如何でしょう? 女官とソグ僧が入りますよね? それと神聖にして不可侵なのは祭壇所内の真ん中、龍座。厳密にはここではないでしょうか?」
シオンの指摘にルーゲンは半面を歪ませ呻かざるをえない。
建前的には不可侵であるが、清掃と荷物の出し入れは誰かがやらなければならない。
そこは慣例であるが、ただしがつく。中心の龍座には何人たれども触れることはできない。
それは例え龍身であろうとも、まだ半分人であるうちはそこには触れられない。
龍になって初めてそこに座れるのだ。
「清掃と荷物の搬入は龍身様のご許可による特例です。ですからそこをお願いに行くのです」
「……龍身様はご自身で調査していると聞くが。それになにかがあったというご報告は頂いてはいません」
「あの障害のあるお身体では見落としもあるかもしれませんし、なによりも儀式がお忙しく十分に調査も出来ていないかとも思われます」
だが、とルーゲンは顔を濁らせるなかでシオンは階段を一気に登り切り同じ段に立ち、言った。
「ルーゲン師はジーナが来ないとお思いでしょうか? そんなことありませんよね。あなたが来ると言ったことから始まったのですよ、この戦いは」
ルーゲンとシオンは視線が合った。大きさの違うその両の瞳。
醜いともバランスが悪いともシオンはいつも思わず、今回も思わなかった。
それがとてもこのルーゲンに相応しい歪みだとどこかで感じていたから。
「これはあなたが予想し求めた戦いです。ジーナは儀式最終日に龍に会いに来る、とあなたが訴え我々もそれに同意しました。それを防ぐためにどうかご協力してください未来の龍の婿殿」
シオンがそう言うとルーゲンは視線を外し階段を降りながら言った。
「……僕から異存があるはずがない。龍身様がお許しならソグ僧側は何も言うことはないし、僕の方から伝えておきます。その際の調査はハイネ嬢になるのですか?」
「感謝いたします。はい、彼女が行います」
「では彼女一人にしてください。他は駄目です。彼女は龍身様から佩刀が許されたものです。そこを説明すれば上層部も納得させられやすいでしょう。それでは、また」
避けるように、逃げるようにしてルーゲンは階下へと消えていくのをシオンはずっと見続けながら、思う。
彼は、龍の婿なのだと。龍身様は認められ、そして私自身も認めた……だけれども納得がどうしてもできない。
どうしてあなたなのだ、と? では他に誰が? 私はいったいに他の誰ならば納得できるというのか?
遥か階下に降りていったためにルーゲンの姿は点以下に小さくなっているのにシオンは結論がつかないままでいた。
自分は何で以って彼を龍の婿に決定することに不同意であり続けたのか?
シオンは過去のことではなく、いまもそうである自身の心が未だ分からずにいて、頭を軽く振るい考えるのをやめ広場へ足を運んだ。
その、この何も無い空間に毎度のことながらシオンは足が止まってしまい半ば放心状態でその光景を眺めてしまう。
見渡す限りこれよりも高い建物は無く、山は遠く空の中に自分がいるような気がし見上げても青い空があり、これこそが天に最も近い場所。この広場の果てには祭壇所がある。
そう、ここには天と地と龍の祭壇所のみがあり正しい意味でこれは世界を現しているのだろう。
世界の究極的な関係性。天と地と龍がなければ成立しえないこの世界。
そのことを誰がここに来てもすぐさまに了解するだろう。
ただ一人を除いては。思い耽っていると彼方の祭壇所の扉が開き誰かが出てきた。
だが、誰かなどということは有り得ない。儀式が終わったのだから出て来るのはただ一人だけなのだ。
この世でただ一人の存在が出てきた、そうであるに決まっている。
扉が閉まりそのものはこちらに向かって歩いてきた。
誰だかまだぼやけてでしか見えないのに、こちらに向かってくるのでシオンも歩き出した。
遠目などということは言い訳に過ぎない。誰であるのかはっきりとしている。
龍身の他において出てくるはずがなく、考えなくてもそれは分かるはずであるのに、シオンにはまだ、呑み込めない。あの人は本当に私のよく知る人なのであろうか?
近づくにつれ次第にはっきりとして来るその姿形に色を見つめながらシオンは疑問を深める。
私のよく知る彼女はあんな歩き方をしていたのか? シオンは驚きから恐怖心を抱きながら進んでいく。
名前は、すぐに出る。誰であるのかは繰り返すように分かっている。だがこの強烈な違和感はなんであろう。
あの人との付き合いは大昔からずっとであるのに。
いや、ずっととはいつだ? とシオンは足が止まり、心が無に近くなる。
思考に靄が掛かり、何も見えず聞こえず考えづらくなる。昔とはいつだ? どこまでさかのぼれる?
あの……龍の事件の時から? そんな馬鹿な! 私は彼女の……龍の騎士……ずっと守り続けてきた。
それはあなたが龍となるものであり、私はそれを護る騎士であり、私達はその関係性の中にあり、それはこの先もずっと……そう、あなた様が現れてから私達の記憶が始まる。
これまでの記憶は消え去りそこから始まることにより、新しい生が始まるように、空っぽになった頭の中で歌うような言葉が流れシオンは跪いた。それとはもう距離が近くなり、顔がはっきりと見えるその距離。
今ならはっきりと言葉にも心の中にもそれが分かり言える、とシオンはそのことだけは思い、何について迷い悩んでいたのか、忘れ、記憶の底に沈んで消える。
「迎えに来てくれたのかのぉ? 龍の騎士よ」
その長い階段は許可なきものは昇ることができない。
もしも武器を携え無断で昇れば龍の力が働き誰もが途中で膝折れ跪いてしまう。
しかし例外といえるものもおり、龍の騎士のみは事前許可なく武器を携行し行き来ができる。
一つの使命である龍を護るために、龍に近づくその全てを討てる力の行使を許可されているために。
階上からはソグ僧が足早で降りて来ている。この時間帯の儀式が終わったのだろう。
スケジュールではこのあとに龍身から時間が空く、休憩時間である。
その時間帯に先の件を依頼すれば。
「シオン嬢? いかがなされた」
見上げるとそこにルーゲン師がいた。ソグ高僧の衣装をつけ、一人ゆっくりと降りて来るルーゲンを見ながらシオンは思う。
どうしても不愉快だな、と。改めてこうも思う。なんでここまで腹が立つのだろうか。
「龍身様に調査の件で依頼したいことがありましてね」
口中が粘つき引っ掛かる気持ち悪さのなかシオンは答えた。
「例の秘密の仕掛けというものの調査ですか。しかしあのような広場のどこにあるというのか……」
反対はしないが疑惑で首を傾けるルーゲンを見ながらシオンも首を傾げるのを我慢しながら想像する。本当にどこにあるのやら。
階段を登り切ると祭壇所へ向かう広場があるが、床と壁以外何も無く限りなく見通しが良い空間なのである。
「壁を調べると言いましてもあの壁の高さと厚さでは秘密の扉を設けることなどできませんし、ならば床しかございませんが、床に関しては儀式が始まってから我々ソグ僧が毎日掃除をし、磨き上げ、更には床づきその足、膝、肘、掌、額を床に当てているのです。それこそ毎日場所を変え広場中の床で我々の手が触れていないものは一切ない、と断言できるほどに僕たちの身体触れている。それが龍の広場なのですよ」
そのことをシオンは承知していた。
ソグ僧ならほんの些細な異変や不審な点があるのなら必ずそれを発見し放置はしない。
もう儀式が始まってから日にちも経っている。そんな中でハイネが少し捜しただけですぐに見つかるような何かがあるとは到底思えない。
「ルーゲン師の仰られていることはもっともでございます。あなた方ソグ僧ですら見つけられないものを私達がちょっと見て分かるとは想像ができません……ですが広場はそうでしょうが祭壇所内はどうでしょうか?」
柔和な表情であったルーゲンの顔が険しくなり、上段から睨んでくるような眼つきにすら見えた。
「……祭壇所は神聖にして不可侵であります。古来より中に入れるものは龍身様とその龍の嫁あるいは婿のみであります」
「ええ分かっています。ですが清掃と荷物の搬入の際は如何でしょう? 女官とソグ僧が入りますよね? それと神聖にして不可侵なのは祭壇所内の真ん中、龍座。厳密にはここではないでしょうか?」
シオンの指摘にルーゲンは半面を歪ませ呻かざるをえない。
建前的には不可侵であるが、清掃と荷物の出し入れは誰かがやらなければならない。
そこは慣例であるが、ただしがつく。中心の龍座には何人たれども触れることはできない。
それは例え龍身であろうとも、まだ半分人であるうちはそこには触れられない。
龍になって初めてそこに座れるのだ。
「清掃と荷物の搬入は龍身様のご許可による特例です。ですからそこをお願いに行くのです」
「……龍身様はご自身で調査していると聞くが。それになにかがあったというご報告は頂いてはいません」
「あの障害のあるお身体では見落としもあるかもしれませんし、なによりも儀式がお忙しく十分に調査も出来ていないかとも思われます」
だが、とルーゲンは顔を濁らせるなかでシオンは階段を一気に登り切り同じ段に立ち、言った。
「ルーゲン師はジーナが来ないとお思いでしょうか? そんなことありませんよね。あなたが来ると言ったことから始まったのですよ、この戦いは」
ルーゲンとシオンは視線が合った。大きさの違うその両の瞳。
醜いともバランスが悪いともシオンはいつも思わず、今回も思わなかった。
それがとてもこのルーゲンに相応しい歪みだとどこかで感じていたから。
「これはあなたが予想し求めた戦いです。ジーナは儀式最終日に龍に会いに来る、とあなたが訴え我々もそれに同意しました。それを防ぐためにどうかご協力してください未来の龍の婿殿」
シオンがそう言うとルーゲンは視線を外し階段を降りながら言った。
「……僕から異存があるはずがない。龍身様がお許しならソグ僧側は何も言うことはないし、僕の方から伝えておきます。その際の調査はハイネ嬢になるのですか?」
「感謝いたします。はい、彼女が行います」
「では彼女一人にしてください。他は駄目です。彼女は龍身様から佩刀が許されたものです。そこを説明すれば上層部も納得させられやすいでしょう。それでは、また」
避けるように、逃げるようにしてルーゲンは階下へと消えていくのをシオンはずっと見続けながら、思う。
彼は、龍の婿なのだと。龍身様は認められ、そして私自身も認めた……だけれども納得がどうしてもできない。
どうしてあなたなのだ、と? では他に誰が? 私はいったいに他の誰ならば納得できるというのか?
遥か階下に降りていったためにルーゲンの姿は点以下に小さくなっているのにシオンは結論がつかないままでいた。
自分は何で以って彼を龍の婿に決定することに不同意であり続けたのか?
シオンは過去のことではなく、いまもそうである自身の心が未だ分からずにいて、頭を軽く振るい考えるのをやめ広場へ足を運んだ。
その、この何も無い空間に毎度のことながらシオンは足が止まってしまい半ば放心状態でその光景を眺めてしまう。
見渡す限りこれよりも高い建物は無く、山は遠く空の中に自分がいるような気がし見上げても青い空があり、これこそが天に最も近い場所。この広場の果てには祭壇所がある。
そう、ここには天と地と龍の祭壇所のみがあり正しい意味でこれは世界を現しているのだろう。
世界の究極的な関係性。天と地と龍がなければ成立しえないこの世界。
そのことを誰がここに来てもすぐさまに了解するだろう。
ただ一人を除いては。思い耽っていると彼方の祭壇所の扉が開き誰かが出てきた。
だが、誰かなどということは有り得ない。儀式が終わったのだから出て来るのはただ一人だけなのだ。
この世でただ一人の存在が出てきた、そうであるに決まっている。
扉が閉まりそのものはこちらに向かって歩いてきた。
誰だかまだぼやけてでしか見えないのに、こちらに向かってくるのでシオンも歩き出した。
遠目などということは言い訳に過ぎない。誰であるのかはっきりとしている。
龍身の他において出てくるはずがなく、考えなくてもそれは分かるはずであるのに、シオンにはまだ、呑み込めない。あの人は本当に私のよく知る人なのであろうか?
近づくにつれ次第にはっきりとして来るその姿形に色を見つめながらシオンは疑問を深める。
私のよく知る彼女はあんな歩き方をしていたのか? シオンは驚きから恐怖心を抱きながら進んでいく。
名前は、すぐに出る。誰であるのかは繰り返すように分かっている。だがこの強烈な違和感はなんであろう。
あの人との付き合いは大昔からずっとであるのに。
いや、ずっととはいつだ? とシオンは足が止まり、心が無に近くなる。
思考に靄が掛かり、何も見えず聞こえず考えづらくなる。昔とはいつだ? どこまでさかのぼれる?
あの……龍の事件の時から? そんな馬鹿な! 私は彼女の……龍の騎士……ずっと守り続けてきた。
それはあなたが龍となるものであり、私はそれを護る騎士であり、私達はその関係性の中にあり、それはこの先もずっと……そう、あなた様が現れてから私達の記憶が始まる。
これまでの記憶は消え去りそこから始まることにより、新しい生が始まるように、空っぽになった頭の中で歌うような言葉が流れシオンは跪いた。それとはもう距離が近くなり、顔がはっきりと見えるその距離。
今ならはっきりと言葉にも心の中にもそれが分かり言える、とシオンはそのことだけは思い、何について迷い悩んでいたのか、忘れ、記憶の底に沈んで消える。
「迎えに来てくれたのかのぉ? 龍の騎士よ」