こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。
終わりの間
ジーナは首を振る。
「もっとだ。もっと痛い衝撃だったろうに。だいたいハイネだって蹲る私を心配するほどだったじゃないか」
「だって初対面ですし知らない人に怪我をさせたらそれはもう心配しますよ。おまけにあなたはあのソグ山の龍戦における英雄ですもの。こっちだって敬意と恐れぐらい持っていましたからねその時は、その時だけは……すぐに消え去りましたけど。いま思うともっともっと強くぶつけてついでにトドメも刺すべきだったとも後悔していますよ」
冗談だと聞こえるも、どこか本気の響きもありジーナは絶句する。
「なんですその心外そうな顔は。だって覗き見しようとしていたのですからそれ相応の報いは受けてしかるべきでしょう」
「またそれか! どうしてもそうしたいようだな」
「いまのなし。もう一度中に戻って着替えてこいとも言いましたよね」
「言ったのはそっちだろうが。着替えましょうかとか言っていただろう」
「私がそんなはしたないことを言っただなんて……言ったような気もしますが、でも誰が信じるのですか? あなたのは虚言として隅に除けられますよ。だから、とても後悔しています。あの後に私がシオン様に痴漢が出ましたと告発していたら、あなたは龍の護衛にならずに済みましたよね。そうすれば良かった」
「それは駄目だろ。私にだって恥というものぐらいある」
「あったんですか、へぇ~意外。私にあんなに破廉恥なことをたくさんした癖に」
「それは……」
ハイネを見ることができずにジーナは目を逸らした。横からくぐもった忍び笑いが聞こえ、しばらくして消えた。
「そして私がどの扉かを教えた、ということでしたよね」
「そうだったな。私はハイネに導かれて扉を選んでその先に進んだ」
「そのことの果てが、いまのこれなのですね」
これ……龍の護衛という役目を捨て逃走し叛逆者としてこの塔へ進む自分。
「これだよハイネ」
「逃げるあなたを危険をも顧みずに追いかけてここにいる、この私。あの時の選択がこれなのですよね」
龍の館で指し示したハイネの指。ジーナは思いだし思う、その指は真っ直ぐ正しい扉を指し、ここまで二人を連れてきたというのか? 導いたというのか?
「後悔していますか?」
問いにジーナは頷くも、何に対して後悔をしているのか自分でもわからなかった。
「私も、しています。こうなってしまったことについては私にも責任の一端があります」
ジーナは驚きか怒りかそれとも違う何かによって声を荒げた。
「いや、そんなことはない」
しかしハイネの声はその声とは無関係に静かに冷たささえあった。
「そんなことは、あります。あなたのその龍を避けていたというところを私が察していたら教えなかった。けど初対面でそんなことを察することなど不可能ですが、それでも結果は私の責任だとしたら、ではどうすれば良かったのでしょうか? ねぇジーナ、一緒に考えてみませんか?」
歩数の感覚では龍の祭壇前の広場にかなり近づいているはずだとジーナはハイネの話を聞きながら思った。
もうすぐゴールなのである。しかしあまりにも順調すぎる。どこか必ず障害があり、なにか問題が起こるに違いない。
「まず初めに、あなたが間違えた扉を開いて私に出会わない。要はすれ違っておしまいです。間違いなくあなたは私の顔も名前も知らずにいたでしょうあなたと私が出会わなければ解決した、どうです?」
「それは駄目だ」
言下に否定するとハイネの瞳はまた赤い夕陽へと戻り光る。そうだ私は惹かれていたのだ。
この赤い瞳に。あの日に出会った時に見たこの光の色に、故郷の……違う、私自身の心を通して見た血塗られた空を夕陽を、私は見て、思い出した……そうだあの日からきっと私の心は分裂しだして……
「では私が間違えた扉を教えてあなたが龍と出会わない、どうです?」
「それも……駄目だ」
ハイネの瞳が細くなり鋭い剣のように胸を突いてくる。こんなのは、答えではないと咎めているかのように。
「ではどうすれば良かったのですか?」
私はどうすれば良かったのか? そんなことは自分でもずっと分からなく、いつまでもそんなことに心を砕いている場合ではなく、今はただ私は……
「駄目ですよジーナ。答えを出さなきゃ」
声によって、足が止まった。ハイネの声は別人のように暗く妖しく神経を蝕んでくるものであった。
ジーナは反射的に瞼を閉じる。闇の中ハイネの声が自身の奥深くに、心の底にまで届き響き染み込んでいくのを感じていた。
「これに対しての答えは、出さなくてはいけません。私とあなたの問題はたくさん、たくさんありましたよね」
沢山あり過ぎた上にどれも解決をしていないなとジーナは改めて思いながら考える。
どうしてこんなに私達はひとつになれなかったのかと。
「これがその集大成であり、最終問題です。ジーナ、あなたにはあなたを取り巻く謎が二つあります。ひとつは自分自身の自己矛盾でありもうひとつは……」
「お前だな、ハイネ」
ジーナは間を置かず自然に答えた、分裂した私にひとつになれないお前……
「良い答えですね。そういうことになります。私にとってあなたは妙なものですよね。こんなに一緒にいたというのにあなたはどこまでもよそよそしく私の前に一枚の壁を設け続けている。でもあなたにとってもあなたは大変に妙なものですよね。こんなに冷たく対応しているのに、なぜか横にいる。特別な関係でもないのにこんなに傍にいて離れたがらない。このような場所にも現れてあなたと手を取り二人のことと昔話をしながら階段を登っていく……変ですよね、変ですよ。私はあなたに何を求めているのか、分からないのです。いくら考えても分からない。……分からないからこそ追いかけている、といってた正解でしょうが、それも分からないという自覚を深めるばかり」
「それは私も同じだハイネ。私もずっとずっと分からないままだ……自分のことハイネのことそれと、ヘイム様のことを。何もわかっていないまま、ここまで来た。目を半分閉じたまま歩き続けてきたようなものだ。何もかもあまり見えず、ここが正解なのかも、不明なままでな」
「やり直しがあるとしたら、どうでしょうか?」
「そんなことはできない」
出来るはずがない。だがもしもできるとしたら私はとジーナは思う。
記憶の奥へと一瞬入った……私は……俺は山に登らずに……空虚感を抱えながら一生を……
「やり直しができるとすれば、ここがそれです。そのまま階段を上がってください」
闇の中で導き手が手を引くとジーナは階段を一段二段、三段登る。空気が、変わった。
それはハイネから出ていたものであろうか? 声を掛けようとするとハイネの手が離れそれと同時にジーナの目が見開いた。
扉がそこに、ある。無数の扉が一面にあり、どれも同じ色をしている。ここはソグの龍の館か? いや違う、時間も空間も戻ってなどいない。
ここにこれがあるだけであり、これで両方ともに龍のものが作ったと判明した。この迷わせるためのもの。
扉を前にして呆然とするジーナの眼の前には手を離したハイネが天から舞い落ちる羽のように軽やかにさながら自由に飛跳ねながら、この扉の部屋の真ん中に立った。
「お分かりのように、ここで終わりですよ。私の道案内もあなたの目的も、ここで終了です」
「もっとだ。もっと痛い衝撃だったろうに。だいたいハイネだって蹲る私を心配するほどだったじゃないか」
「だって初対面ですし知らない人に怪我をさせたらそれはもう心配しますよ。おまけにあなたはあのソグ山の龍戦における英雄ですもの。こっちだって敬意と恐れぐらい持っていましたからねその時は、その時だけは……すぐに消え去りましたけど。いま思うともっともっと強くぶつけてついでにトドメも刺すべきだったとも後悔していますよ」
冗談だと聞こえるも、どこか本気の響きもありジーナは絶句する。
「なんですその心外そうな顔は。だって覗き見しようとしていたのですからそれ相応の報いは受けてしかるべきでしょう」
「またそれか! どうしてもそうしたいようだな」
「いまのなし。もう一度中に戻って着替えてこいとも言いましたよね」
「言ったのはそっちだろうが。着替えましょうかとか言っていただろう」
「私がそんなはしたないことを言っただなんて……言ったような気もしますが、でも誰が信じるのですか? あなたのは虚言として隅に除けられますよ。だから、とても後悔しています。あの後に私がシオン様に痴漢が出ましたと告発していたら、あなたは龍の護衛にならずに済みましたよね。そうすれば良かった」
「それは駄目だろ。私にだって恥というものぐらいある」
「あったんですか、へぇ~意外。私にあんなに破廉恥なことをたくさんした癖に」
「それは……」
ハイネを見ることができずにジーナは目を逸らした。横からくぐもった忍び笑いが聞こえ、しばらくして消えた。
「そして私がどの扉かを教えた、ということでしたよね」
「そうだったな。私はハイネに導かれて扉を選んでその先に進んだ」
「そのことの果てが、いまのこれなのですね」
これ……龍の護衛という役目を捨て逃走し叛逆者としてこの塔へ進む自分。
「これだよハイネ」
「逃げるあなたを危険をも顧みずに追いかけてここにいる、この私。あの時の選択がこれなのですよね」
龍の館で指し示したハイネの指。ジーナは思いだし思う、その指は真っ直ぐ正しい扉を指し、ここまで二人を連れてきたというのか? 導いたというのか?
「後悔していますか?」
問いにジーナは頷くも、何に対して後悔をしているのか自分でもわからなかった。
「私も、しています。こうなってしまったことについては私にも責任の一端があります」
ジーナは驚きか怒りかそれとも違う何かによって声を荒げた。
「いや、そんなことはない」
しかしハイネの声はその声とは無関係に静かに冷たささえあった。
「そんなことは、あります。あなたのその龍を避けていたというところを私が察していたら教えなかった。けど初対面でそんなことを察することなど不可能ですが、それでも結果は私の責任だとしたら、ではどうすれば良かったのでしょうか? ねぇジーナ、一緒に考えてみませんか?」
歩数の感覚では龍の祭壇前の広場にかなり近づいているはずだとジーナはハイネの話を聞きながら思った。
もうすぐゴールなのである。しかしあまりにも順調すぎる。どこか必ず障害があり、なにか問題が起こるに違いない。
「まず初めに、あなたが間違えた扉を開いて私に出会わない。要はすれ違っておしまいです。間違いなくあなたは私の顔も名前も知らずにいたでしょうあなたと私が出会わなければ解決した、どうです?」
「それは駄目だ」
言下に否定するとハイネの瞳はまた赤い夕陽へと戻り光る。そうだ私は惹かれていたのだ。
この赤い瞳に。あの日に出会った時に見たこの光の色に、故郷の……違う、私自身の心を通して見た血塗られた空を夕陽を、私は見て、思い出した……そうだあの日からきっと私の心は分裂しだして……
「では私が間違えた扉を教えてあなたが龍と出会わない、どうです?」
「それも……駄目だ」
ハイネの瞳が細くなり鋭い剣のように胸を突いてくる。こんなのは、答えではないと咎めているかのように。
「ではどうすれば良かったのですか?」
私はどうすれば良かったのか? そんなことは自分でもずっと分からなく、いつまでもそんなことに心を砕いている場合ではなく、今はただ私は……
「駄目ですよジーナ。答えを出さなきゃ」
声によって、足が止まった。ハイネの声は別人のように暗く妖しく神経を蝕んでくるものであった。
ジーナは反射的に瞼を閉じる。闇の中ハイネの声が自身の奥深くに、心の底にまで届き響き染み込んでいくのを感じていた。
「これに対しての答えは、出さなくてはいけません。私とあなたの問題はたくさん、たくさんありましたよね」
沢山あり過ぎた上にどれも解決をしていないなとジーナは改めて思いながら考える。
どうしてこんなに私達はひとつになれなかったのかと。
「これがその集大成であり、最終問題です。ジーナ、あなたにはあなたを取り巻く謎が二つあります。ひとつは自分自身の自己矛盾でありもうひとつは……」
「お前だな、ハイネ」
ジーナは間を置かず自然に答えた、分裂した私にひとつになれないお前……
「良い答えですね。そういうことになります。私にとってあなたは妙なものですよね。こんなに一緒にいたというのにあなたはどこまでもよそよそしく私の前に一枚の壁を設け続けている。でもあなたにとってもあなたは大変に妙なものですよね。こんなに冷たく対応しているのに、なぜか横にいる。特別な関係でもないのにこんなに傍にいて離れたがらない。このような場所にも現れてあなたと手を取り二人のことと昔話をしながら階段を登っていく……変ですよね、変ですよ。私はあなたに何を求めているのか、分からないのです。いくら考えても分からない。……分からないからこそ追いかけている、といってた正解でしょうが、それも分からないという自覚を深めるばかり」
「それは私も同じだハイネ。私もずっとずっと分からないままだ……自分のことハイネのことそれと、ヘイム様のことを。何もわかっていないまま、ここまで来た。目を半分閉じたまま歩き続けてきたようなものだ。何もかもあまり見えず、ここが正解なのかも、不明なままでな」
「やり直しがあるとしたら、どうでしょうか?」
「そんなことはできない」
出来るはずがない。だがもしもできるとしたら私はとジーナは思う。
記憶の奥へと一瞬入った……私は……俺は山に登らずに……空虚感を抱えながら一生を……
「やり直しができるとすれば、ここがそれです。そのまま階段を上がってください」
闇の中で導き手が手を引くとジーナは階段を一段二段、三段登る。空気が、変わった。
それはハイネから出ていたものであろうか? 声を掛けようとするとハイネの手が離れそれと同時にジーナの目が見開いた。
扉がそこに、ある。無数の扉が一面にあり、どれも同じ色をしている。ここはソグの龍の館か? いや違う、時間も空間も戻ってなどいない。
ここにこれがあるだけであり、これで両方ともに龍のものが作ったと判明した。この迷わせるためのもの。
扉を前にして呆然とするジーナの眼の前には手を離したハイネが天から舞い落ちる羽のように軽やかにさながら自由に飛跳ねながら、この扉の部屋の真ん中に立った。
「お分かりのように、ここで終わりですよ。私の道案内もあなたの目的も、ここで終了です」