私をフッた元上司と再会したら求愛された件
 嘘、だよね……? 絶対、冗談でしょ……?

 夢でも見ているのかもしれない。その方が納得がいく。私が何も言えずに唖然としていると、戸川さんがほろ苦く笑った。

「ごめん、困るよな。いきなりこんなこと言われたら」

「えっ、あっ……いえ……」

「孝次郎もこんなんだし、今日はお開きにするか」

 そう言って、戸川さんは伝票を持って席を立ってしまった。

 私は所々黒ずんだ天井を見上げて、それから視線を徐々に下げた。楽しそうにお酒を飲むサラリーマンたち、赤い顔で眠る与田さん。夢にしては、解像度が高い。間違いなく現実だった。

「何だろう……からかわれてるのかな、私……」

 じゃないとこの状況に説明がつけられない。

 ほどなくして戻ってきた戸川さんは、潰れた与田さんを担ぐと再び立ち上がった。私も慌てて席を立つ。

「ごめん。俺、こいつを家まで送って行かなきゃだから送れないけど、これで帰って」

 そう言って渡されたのは二万円。弾みで受け取ってしまったけれど、私はギョッとしてすぐに返した。

「だ、大丈夫です! 電車もまだありますし」

「いいから。夜ひとりで帰るのは危ないし、俺が送れない代わりにタクシーで帰って」

 すごく女の子扱いされている。そう言われたら、もう突き返せない。真っ赤になっていると、戸川さんは私の目を覗き込むようにして見つめてくる。

「次は俺が送っていっても良い?」

 次、とは……。でも詳しく聞ける余裕なんてなくて。私は頷くだけで精一杯だった。
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