めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】
「青山……」
「ひどい、ひどすぎます。どうして? 私にとって大切な思い出なのに。一瞬で私の心を魅了して、別世界に連れて行ってくれた素敵な空間デザインだったのに。私の進むべき道はこれだって、そう思わせてくれたのに。あの夜があったから、私はデザイナーになれた。それを否定するんですか?」
「違う! そうじゃない。ただ俺は、青山が4年間も、その、言葉を交わしただけの相手のことを忘れられないのはどうかと思って。それほど大した男じゃなかったんじゃないか?」
「そんなことありません! 優しくてかっこよくて、ずっとずっと私の憧れの……、え?」
今度は花穂がじっと大地を見つめた。
「言葉を交わした相手って、浅倉さん、どうしてそのことを? もしかして……」
しまった、とばかりに大地が目を見開く。
「思い出したんですか? あの時のこと」
「いや、別に俺は……って、え? 思い出した? まさか青山、最初から気づいてたのか? あの時の男が誰か」
「もちろんです。ホテル セレストの件で初めてお会いした時に、すぐに分かりました。雰囲気は違ってましたけど、浅倉さんが4年前のあの人だって」
「そうだったのか……」
大地は気が抜けたように呟いた。
「知らなかった、ずっと俺だと分かってたなんて」
「私こそ、浅倉さんは4年前のことなんてすっかり忘れていると思ってました。さっきジュエリーショップで店長に言われて思い出したんですか?」
「いや、違う。少し前に……」
すると大地は、右手で顔を覆ってうつむいた。
「ん? どうしたんですか?」
「……青山こそ、忘れてるだろ」
「なにを?」
「最初に二人でバーに行った時のこと」
「覚えてますよ。ウイスキー飲んだんですよね」
「じゃあ、どんな話をしたかは?」
「えっと、確か日本語の文法についてですよね? 目的語かと思いきや、主語なんですよって話を」
「なんでそっちの小難しい方を覚えてんだよ!」
はい?と花穂は首をひねる。
「そっちってことは、もう1つは?」
「……言ってもいいのか?」
「どうぞ?」
ツンと澄まして言うと、大地はニヤリと笑った。
「頭ポンポンしてほしいってさ。ひよこちゃんが」
「は!?」
思いもよらぬ言葉に、花穂は一気に顔を赤らめる。
「まさか! そんなこと言う訳ないじゃないですか。だってご本人に、ですよ?」
「お前がそう言ったから、俺は思い出したんだぞ?」
「そ、そんな……」
花穂は両手を頬に当てて、もはや半泣きになる。
「忘れてください。お願いします」
「なんで? 嘘だったから?」
「嘘、ではない、です」
小声で答えると、大地はハッと息を呑んだ。
「ひどい、ひどすぎます。どうして? 私にとって大切な思い出なのに。一瞬で私の心を魅了して、別世界に連れて行ってくれた素敵な空間デザインだったのに。私の進むべき道はこれだって、そう思わせてくれたのに。あの夜があったから、私はデザイナーになれた。それを否定するんですか?」
「違う! そうじゃない。ただ俺は、青山が4年間も、その、言葉を交わしただけの相手のことを忘れられないのはどうかと思って。それほど大した男じゃなかったんじゃないか?」
「そんなことありません! 優しくてかっこよくて、ずっとずっと私の憧れの……、え?」
今度は花穂がじっと大地を見つめた。
「言葉を交わした相手って、浅倉さん、どうしてそのことを? もしかして……」
しまった、とばかりに大地が目を見開く。
「思い出したんですか? あの時のこと」
「いや、別に俺は……って、え? 思い出した? まさか青山、最初から気づいてたのか? あの時の男が誰か」
「もちろんです。ホテル セレストの件で初めてお会いした時に、すぐに分かりました。雰囲気は違ってましたけど、浅倉さんが4年前のあの人だって」
「そうだったのか……」
大地は気が抜けたように呟いた。
「知らなかった、ずっと俺だと分かってたなんて」
「私こそ、浅倉さんは4年前のことなんてすっかり忘れていると思ってました。さっきジュエリーショップで店長に言われて思い出したんですか?」
「いや、違う。少し前に……」
すると大地は、右手で顔を覆ってうつむいた。
「ん? どうしたんですか?」
「……青山こそ、忘れてるだろ」
「なにを?」
「最初に二人でバーに行った時のこと」
「覚えてますよ。ウイスキー飲んだんですよね」
「じゃあ、どんな話をしたかは?」
「えっと、確か日本語の文法についてですよね? 目的語かと思いきや、主語なんですよって話を」
「なんでそっちの小難しい方を覚えてんだよ!」
はい?と花穂は首をひねる。
「そっちってことは、もう1つは?」
「……言ってもいいのか?」
「どうぞ?」
ツンと澄まして言うと、大地はニヤリと笑った。
「頭ポンポンしてほしいってさ。ひよこちゃんが」
「は!?」
思いもよらぬ言葉に、花穂は一気に顔を赤らめる。
「まさか! そんなこと言う訳ないじゃないですか。だってご本人に、ですよ?」
「お前がそう言ったから、俺は思い出したんだぞ?」
「そ、そんな……」
花穂は両手を頬に当てて、もはや半泣きになる。
「忘れてください。お願いします」
「なんで? 嘘だったから?」
「嘘、ではない、です」
小声で答えると、大地はハッと息を呑んだ。