めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】
「アンティークジュエリー?」

銀座のジュエリーショップにディスプレイの模様替えに来た日、作業を終えた大地と花穂は、バックオフィスで店長から話を聞かせてもらっていた。

「はい。1837年から1901年を中心に、ヨーロッパ貴族が愛用した宝飾品のことをお聞きしたくて」
「なるほど。ローソクのシャンデリアの下で舞踏会が盛んに行われていた、ビクトリア王朝時代のことね。ジュエリーは、貴族やブルジョワに支援された一流の宝飾師たちが長い年月をかけて作り出す、いわば芸術作品だったの」

そう言って店長は、大きく3つの時代に分けて説明する。

「まずは今から200年前の19世紀初期。金や宝石の採掘量が極めて少なく、現在と比べるととんでもなく高価な時代だったの。できるだけ少ない金で、より豪華に見えるようにって、カンティーユ(線状細工)という技法が用いられた。これは現在では再現不可能と言われるくらい、見事な細工なの」

花穂は感心しながら熱心にメモを取る。

「次に19世紀中期ね。若きビクトリア女王の華やかだった時代よ。ジュエリーの歴史の中でもそれまでは見られなかったほど、様々な様式が共存した時代なの。幾重にも裾にヒダを寄せたクリノリンスタイルと呼ばれるドレスが流行って、舞踏会が盛んに行われていたわ。当時のイギリスは植民地から莫大な富を得て富裕層が繁栄、ジュエリーの質と量も飛躍的に発展したの。最後は19世紀後期」

すると店長は、うっとりと宙を見つめる。

「なんと言ってもダイヤモンドの時代よ。1870年に南アフリカで大きなダイヤモンド鉱山が発見されたの。これまでインドやブラジルの限られた産地でしか採れなかったダイヤモンドが、一気に豊富に供給されるようになった。中世からおよそ600年、人々を魅了し続けてきたダイヤモンドの歴史が、この時代に大きく花開いたのよ」

両手を組んで店内のジュエリーに目をやる店長は、さすがハイブランドのショップを任されているだけあって、スラスラと分かりやすく花穂たちに語ってくれた。

「ありがとうございます、店長。とても貴重なお話を聞かせていただきました」
「いいえー。ジュエリーに興味を持ってくれて嬉しいわ。またいつでも聞いてきてちょうだいね」
「はい、ありがとうございました」

花穂は早速店長の話をもとに、空間デザインのアイデアを練っていった。
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