めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】
公開コンペは、書類審査に通った5社で競われることになっていた。
オンリーワンプランニングは4番目。
そしてチェレスタがラストの5番目だ。
照明を絞った広い会議室で、最初のプレゼンが始まった。
審査員たちが前方の席に横並びで座り、花穂たち参加者が後方からその様子を見守る。
どの企業も、照明や映像、装飾に趣向を凝らし、オリジナリティー溢れるプレゼンに花穂は感心した。
(次はいよいよ織江さんたちね)
ゴクリと喉を鳴らして見つめる先で、笹本が口元に笑みを浮かべて一礼する。
「オンリーワンプランニングの笹本と申します。これより弊社がご提案いたしますテーマは、ずばり『研ぎ澄まされた美』。無駄なものを一切削ぎ落とし、時間の感覚さえも切り離して、ただジュエリーだけをそこに存在させる。その空間を実現しました。どうぞご覧ください」
笹本が目配せし、端に控えていた織江がパソコンを操作する。
前方のプロジェクターに映像が映し出された。
真っ暗な展示室に、ひと筋の光が射し込むショーケース。
「ここは漆黒の空間です。 壁も床も天井も、全てに色はなく、奥行きや高さも感じられません。まるで宇宙空間に入り込んだように感じる中、ジュエリーだけがそこに浮かび上がります。照らすライトは一点スポットのみ。ジュエリーを載せる台は鏡面シルバーで、上からのスポットライトで反射させて色を飛ばし、光の中に溶け込ませることによって、ジュエリーだけが浮かび上がって見えます。音響も無音に近い空間で、ショーケースごとに異なる響きが遠くから静かに聞こえてきます。低い弦の音、かすかな水音など。そして時折空気が揺れるように、わずかな風が吹き抜けます」
まるで映画を観ているように、花穂は笹本の語りを聞きながら映像に引き込まれる。
「ジュエリーを照らす照明はゆっくりと少しずつ角度を変え、影が時間をかけて確実に変化していきます。まるで何十年もの時が流れるかのように、ジュエリーが見せる表情もじっくりと味わっていただけます」
映像が終わると、笹本は審査員席を見渡して力強く締めくくった。
「極限まで余計なものを削ぎ落とし、ジュエリーの本質だけを静かに浮かび上がらせる。これこそがアンティークジュエリーの展示に相応しい空間だと我々は確信しています。人々の心に直接訴えかけるジュエリーの力を最大限に生かす、それが我々のデザインです。ご清聴ありがとうございました」
深々とお辞儀をする笹本に、審査員たちが拍手を送る。
それは他の企業の時には見られないシーンだった。
ほぼこれに決まり、そんな雰囲気を花穂は感じた。
笹本と織江が笑顔で頷き合っているのを、力もなくぼんやりと眺める。
その時、隣から大地がギュッと花穂の手を握ってきた。
顔を上げると、大地は力強く花穂に頷いてみせる。
花穂の心はふわりと軽くなり、大きな安心感に包まれた。
「行くぞ、花穂」
「はい」
しっかりと大地の手を握り返し、立ち上がる。
迷いや不安はもうどこにもなかった。
オンリーワンプランニングは4番目。
そしてチェレスタがラストの5番目だ。
照明を絞った広い会議室で、最初のプレゼンが始まった。
審査員たちが前方の席に横並びで座り、花穂たち参加者が後方からその様子を見守る。
どの企業も、照明や映像、装飾に趣向を凝らし、オリジナリティー溢れるプレゼンに花穂は感心した。
(次はいよいよ織江さんたちね)
ゴクリと喉を鳴らして見つめる先で、笹本が口元に笑みを浮かべて一礼する。
「オンリーワンプランニングの笹本と申します。これより弊社がご提案いたしますテーマは、ずばり『研ぎ澄まされた美』。無駄なものを一切削ぎ落とし、時間の感覚さえも切り離して、ただジュエリーだけをそこに存在させる。その空間を実現しました。どうぞご覧ください」
笹本が目配せし、端に控えていた織江がパソコンを操作する。
前方のプロジェクターに映像が映し出された。
真っ暗な展示室に、ひと筋の光が射し込むショーケース。
「ここは漆黒の空間です。 壁も床も天井も、全てに色はなく、奥行きや高さも感じられません。まるで宇宙空間に入り込んだように感じる中、ジュエリーだけがそこに浮かび上がります。照らすライトは一点スポットのみ。ジュエリーを載せる台は鏡面シルバーで、上からのスポットライトで反射させて色を飛ばし、光の中に溶け込ませることによって、ジュエリーだけが浮かび上がって見えます。音響も無音に近い空間で、ショーケースごとに異なる響きが遠くから静かに聞こえてきます。低い弦の音、かすかな水音など。そして時折空気が揺れるように、わずかな風が吹き抜けます」
まるで映画を観ているように、花穂は笹本の語りを聞きながら映像に引き込まれる。
「ジュエリーを照らす照明はゆっくりと少しずつ角度を変え、影が時間をかけて確実に変化していきます。まるで何十年もの時が流れるかのように、ジュエリーが見せる表情もじっくりと味わっていただけます」
映像が終わると、笹本は審査員席を見渡して力強く締めくくった。
「極限まで余計なものを削ぎ落とし、ジュエリーの本質だけを静かに浮かび上がらせる。これこそがアンティークジュエリーの展示に相応しい空間だと我々は確信しています。人々の心に直接訴えかけるジュエリーの力を最大限に生かす、それが我々のデザインです。ご清聴ありがとうございました」
深々とお辞儀をする笹本に、審査員たちが拍手を送る。
それは他の企業の時には見られないシーンだった。
ほぼこれに決まり、そんな雰囲気を花穂は感じた。
笹本と織江が笑顔で頷き合っているのを、力もなくぼんやりと眺める。
その時、隣から大地がギュッと花穂の手を握ってきた。
顔を上げると、大地は力強く花穂に頷いてみせる。
花穂の心はふわりと軽くなり、大きな安心感に包まれた。
「行くぞ、花穂」
「はい」
しっかりと大地の手を握り返し、立ち上がる。
迷いや不安はもうどこにもなかった。