めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】
「チェレスタ株式会社の浅倉と、大森、青山です。我々がご提案するテーマは『宝石が語る物語』。アンティークジュエリーは単なる装飾品にとどまらず、それぞれに時代背景や持ち主の物語があります。我々はその物語をご来場のお客様がご自身の足でたどるという、ここでしか体験できない展示空間をデザインしました」

どういうことだ?とばかりに首をひねる審査員たちに、大地はテンポ良く説明する。

「まず会場入り口でお客様全員に、この小さな光のペンダントをお渡しします」

大地の説明に合わせて、花穂が透明の小さなペンダントを掲げて見せる。

「このペンダントには、LEDと通信機能を内蔵してあります。会場内のショーケースに近づくと、そのペンダントが共鳴して淡く色づき、背景の壁にそのジュエリーの物語を光と映像で投影します」

花穂が用意したショーケースにペンダントをかざすと、背後のプロジェクターに当時の舞踏会の様子が映像となって現れた。

アンティークジュエリーを着け、ドレスに身を包んだ貴婦人たちが、華やかに踊る様子が映し出される。

ほう、と審査員たちが身を乗り出して目を凝らした。

「ショーケースのジュエリーを照らす照明は、敢えて強さを抑えました。なぜなら、アンティークジュエリーは電気の発達していない時代に、ロウソクの灯りの中でこそ美しく輝くように作られたからです」

ハッと笹本と織江が息を呑んだのが、遠目にも分かった。

「こんなふうに数々のアンティークジュエリーとその物語を楽しんだあと、退出時にペンダントを返却してもらう代わりに『あなたがたどったアンティークジュエリーの軌跡』として短くまとめた動画をQRコードで配布します。これによりお客様はこの美術館での思い出をいつでも見返すことができ、SNSでの拡散にも繋がると考えます」

すると審査員のひとりが手を挙げた。

「そのペンダントの仕組みは? あまりに大掛かりなものだと困る」
「承知しました。大森よりご説明いたします」

大森は大地からマイクを受け取ると、ペンダントを見せながら説明する。

「仕組みはシンプルです。各ショーケースにビーコンと呼ばれる小さな無線発信器を設置し、近くに来たペンダントに信号を送ります。ペンダントはその信号を受け取ると、色を変えたり、会場の映像システムと連動して映像を投影します。信号はBluetoothの省電力なものですし、ペンダントは小型電池で数日間稼働します。映像もそこまで大きなものではないですので、コスト面でも充分現実的かと存じます」

最後に大地がもう一度マイクを持って締めくくる。

「我々はアンティークジュエリーそのものだけでなく、その背後に眠る数百年という時間をお客様に体験していただきたい。それを実現する空間を、このチームで形にしてみせます」

3人で深々とお辞儀をしてプレゼンは終わった。
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