めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】
「浅倉さん!」
審査会場を出たところで、笹本がタタッと駆け寄って来た。
「完敗です。素晴らしいプレゼンでした」
「いやいや、結果発表は明日だろ?」
「どのアイデアが選ばれるか見極められないほど、俺は落ちぶれてはいません。それと浅倉さん、改めて謝罪させてください。俺、あの時あなたにひどいことを……」
そう言って笹本は視線を落とす。
花穂はそっとその場を離れようとした。
すると大地が後ろ手にスッと花穂の手を握る。
(えっ?)
花穂は大地の背中を見上げるが、大地は笹本の方を向いたままだった。
「浅倉さん。俺は昔、一度だけコンペであなたに勝ちました。だけど少しも嬉しくなかった。ずっと憧れて目標にしていた浅倉さんに勝ったのに、どうしようもなく憤りました。それでついあんなことを……。申し訳ありませんでした」
そう言って笹本は深く頭を下げる。
大地はなにも言わない。
花穂はハラハラして、思わず大地に繋がれた手をキュッと握ってしまった。
すると大地が優しくその手を握り返す。
まるで「大丈夫だ」と言うように。
「笹本、謝る必要はない」
やがて大地が穏やかに声をかけた。
「あの時の俺はお前の言う通り、ただ自分に酔いしれただけの天狗だった。コンペで正々堂々と戦ってくれたお前にも失礼なことをした。それをお前は気づかせてくれたんだ。ありがとう、笹本」
「浅倉さん……」
「確かにそのあとスランプに陥った。辛い時期だったが、あのままふんぞり返った裸の王様になるよりは遥かにマシだ。それに今はこうして……」
そこまで言うと、大地は花穂と繋いだ手を引き、花穂の肩を抱き寄せる。
(えっ!)
思わず顔を上げると、大地が優しく花穂に微笑んだ。
「大切な人と一緒に、自分たちにしかないアイデアを生み出すことができる。俺は自分らしく仕事を楽しめるようになった。笹本が戒めてくれたおかげだ。ありがとう。これからも良きライバルでいてくれ」
「浅倉さん……」
感極まったように唇を震わせる笹本と、大地は固い握手を交わす。
「これからも同じ仕事に携わる者同士、心に残る時間をプロデュースしていこう」
「はい! 浅倉さん、またサシで飲みに行かせてください」
「ああ、そうだな」
笑顔の二人に、花穂の目に涙が込み上げる。
「次は絶対に負けませんからね」
清々しい笑顔を見せて笹本が去って行くと、大地は花穂の顔を覗き込み、ふっと笑った。
「なに泣いてんの。俺に惚れ直したか?」
「はい。私、あなたのことが大好きです」
大地は驚いたように目を見開いてから、心底嬉しそうに目を細める。
「俺も花穂が大好きだ。ありがとう、花穂」
花穂は我慢の限界とばかりに、ぽろぽろと涙をこぼす。
大地は花穂を抱き寄せ、ポンポンと優しく頭をなでた。
審査会場を出たところで、笹本がタタッと駆け寄って来た。
「完敗です。素晴らしいプレゼンでした」
「いやいや、結果発表は明日だろ?」
「どのアイデアが選ばれるか見極められないほど、俺は落ちぶれてはいません。それと浅倉さん、改めて謝罪させてください。俺、あの時あなたにひどいことを……」
そう言って笹本は視線を落とす。
花穂はそっとその場を離れようとした。
すると大地が後ろ手にスッと花穂の手を握る。
(えっ?)
花穂は大地の背中を見上げるが、大地は笹本の方を向いたままだった。
「浅倉さん。俺は昔、一度だけコンペであなたに勝ちました。だけど少しも嬉しくなかった。ずっと憧れて目標にしていた浅倉さんに勝ったのに、どうしようもなく憤りました。それでついあんなことを……。申し訳ありませんでした」
そう言って笹本は深く頭を下げる。
大地はなにも言わない。
花穂はハラハラして、思わず大地に繋がれた手をキュッと握ってしまった。
すると大地が優しくその手を握り返す。
まるで「大丈夫だ」と言うように。
「笹本、謝る必要はない」
やがて大地が穏やかに声をかけた。
「あの時の俺はお前の言う通り、ただ自分に酔いしれただけの天狗だった。コンペで正々堂々と戦ってくれたお前にも失礼なことをした。それをお前は気づかせてくれたんだ。ありがとう、笹本」
「浅倉さん……」
「確かにそのあとスランプに陥った。辛い時期だったが、あのままふんぞり返った裸の王様になるよりは遥かにマシだ。それに今はこうして……」
そこまで言うと、大地は花穂と繋いだ手を引き、花穂の肩を抱き寄せる。
(えっ!)
思わず顔を上げると、大地が優しく花穂に微笑んだ。
「大切な人と一緒に、自分たちにしかないアイデアを生み出すことができる。俺は自分らしく仕事を楽しめるようになった。笹本が戒めてくれたおかげだ。ありがとう。これからも良きライバルでいてくれ」
「浅倉さん……」
感極まったように唇を震わせる笹本と、大地は固い握手を交わす。
「これからも同じ仕事に携わる者同士、心に残る時間をプロデュースしていこう」
「はい! 浅倉さん、またサシで飲みに行かせてください」
「ああ、そうだな」
笑顔の二人に、花穂の目に涙が込み上げる。
「次は絶対に負けませんからね」
清々しい笑顔を見せて笹本が去って行くと、大地は花穂の顔を覗き込み、ふっと笑った。
「なに泣いてんの。俺に惚れ直したか?」
「はい。私、あなたのことが大好きです」
大地は驚いたように目を見開いてから、心底嬉しそうに目を細める。
「俺も花穂が大好きだ。ありがとう、花穂」
花穂は我慢の限界とばかりに、ぽろぽろと涙をこぼす。
大地は花穂を抱き寄せ、ポンポンと優しく頭をなでた。