二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~
「和子先生には本当に感謝しています。僕は昔引っ込み思案だったんですが、よく励ましてもらいました。この手帳にも、先生からもらった言葉を書き記してあるんですよ」
彼が取り出した古い革の手帳には、手書きでびっしりと文字が書き込まれている。
「学生時代にもらった言葉も、教師として半人前の頃にもらった励ましも、僕にとって宝物です」
「ありがとうございます。そう言っていただいて、祖母も喜んでいると思います」
そうして祖母の思い出話に花を咲かせていると、突然糸井が胸を押さえて顔を顰めた。
「糸井さん? どうしましたか?」
「あ、いえ、すみません。最近、たまに胸がこう痛くなることがあって⋯⋯。いつも少し休めば治るので、気にしないでください」
そう言って糸井は墓石を囲う外柵に手を掛けて蹲るが、一向に痛みが治まる気配がない。それどころか、額には脂汗が滲み、かなり痛そうに苦悶の表情を浮かべている。
「糸井さん。救急車呼びますね。心臓を圧迫しちゃうので俯かないで、横になりましょうか。少し服を緩めますね」