二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~

けれど周囲の視線を引いているこの場では彼女も泣くに泣けないだろうし、櫂も他の男に彼女の泣き顔を見せるのは避けたかった。

一瞬の間に脳内で考えを巡らせ、結局は彼女と連れ立って店を出た。下心がないといえば嘘になるが、一晩だけのつもりはない。

職場で千咲を認識してから、約二年。少しずつ意識し、好意を持ち、自分の中でゆっくりと気持ちを育んでいった。途中で枯れることなく大きく育った想いは、多少のことでは動じない自信がある。

ずっと気になっていたと告げて、これからも一緒にいたいと気持ちを伝えたが、彼女はすぐには頷いてくれなかった。

『父がどんな人かも知らないし、母は私を捨てて出ていきました。それ自体はもう悲しかったりしないんですけど、恋とか愛とか、そういうものに期待が薄いというか⋯⋯』

永遠の愛に懐疑的で、ずっと恋愛を避けてきたという千咲に、それでもいいと言い募った。

両親の愛情に恵まれず、育ててくれた祖母をも失ってしまった彼女を、今日からは自分が守りたい。

けれど、櫂にはずっと千咲だけを想い続ける自信があろうとも、それを彼女に信じてほしいというには、ふたりはまだ互いを知らない。

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