【短】悪女、悪魔に転生する。
まったく、私には好きな男もいなければ、男にさそいをかけてあそんだこともないって言うのに。
あいつらが勝手に惚れてるだけじゃない、あたしの“顔”に。
だいたい、あたしのほうこそいい迷惑なのよ。泣く女にすがりつかれたり罵倒されたりってことが、毎週のようにあるんだから。
「あなたのどこがいいって言うのよ!顔だけの性悪女じゃない!」
うしろから聞こえる涙声を無視して、点滅が始まった信号を早足で渡る。
向かいの歩道にたどり着く直前で赤信号に変わったのを見て、これであの女を引き離せたわね、と うしろにすこし視線を向けたら。
「あっ…!」
「ねぇやば…!」
歩行者が渡りきるのを待って、今まさにT字路をまがった車の前に、うつむいて涙をぬぐっているあの女が歩み出ていた。
信号が変わったのも、車がせまっているのも気づいていないのか――。
あんたバカなの!?という思いが口をついて出る前に、私は思わず振り返って、渡ってきたばかりの横断歩道をもどっていた。