同期と私の、あと一歩の恋
本田くんはなにも言わない私との距離をじわりと詰めてきた。
思わず後ずさると、彼はまた一歩と静かに距離を縮める。
背中に冷たい壁を感じ、気付けば壁際に追い詰められていた。

逃げ場を失い、どうすることもできない。
恐る恐る彼を見上げると、口の端を少しだけ上げて笑った。

「もう逃げ場はないよ」

本田くんから目をそらすことができず、心臓が早鐘を打つ。

「さて、これ以上ハッキリしないのは嫌だから、俺も勝負に出るよ。でも、その前に保険をかけてもいいかな」

堂々とした口調が、最後の一言で少し揺らぐ。
どこか不安げで、それでいて覚悟を決めたような眼差しで私を見つめる。

「広瀬はさ、俺が他の女を触ったりしてたらどう思う?」

その言葉を聞き、想像しただけで胸がチクリと痛んだ。

「……嫌」

無意識に本音が漏れていた。
本田くんは安堵した笑みを浮かべ、真っ直ぐに私を見つめてきた。

「よかった。俺もさ、広瀬が他の男と親し気に話しているのを見るのは正直気分がよくない」

少し拗ねたような口調で言われ、私は理解できずに首を傾げる。

私が他の男性と親し気に話していたことなんてあっただろうか。
仕事以外で話すことはないはずだ。
思い当たる節はないけど、本田くんの様子はまるでヤキモチを焼いているみたい。
その時、脳裏に浮かぶのは、さっきの本田くんの言葉。

『俺が意思を持って触るのは、広瀬だけだよ』

その言葉を何度も反芻し、ハッとした。
これは、また私の都合のいい勘違いとかじゃないよね?

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