生徒会長・柊木先輩のひみつ

「それでも、こうして苦手なことにも挑戦してる先輩はすごいです」

私の言葉に、先輩は目を見開いた。

彼の完璧に見えたキャラ弁は、誰にも見せない彼の努力の証だったのだ。

彼の不器用な姿と真剣な眼差しに、私の心は満たされていく。

柊木先輩と調理台を挟んで向かい合っていることに緊張していたのか、私が卵焼きをフライパンからお皿に移そうとしたとき、手が滑って卵焼きがコロリと床に落ちてしまった。

「あ……!」

私の焦った声に、先輩が素早く動く。

彼は私の手元にそっと手を伸ばすと、落ちた卵焼きを拾い、私の手についた汚れをハンカチで拭ってくれた。

「稲葉、大丈夫か?」

彼の優しい声が耳元で囁かれる。その温かい声と、私の手を包み込む彼の大きな手に、心臓はさらに大きく跳ね上がった。

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

いま目の前にいるのは、完璧な生徒会長ではない、一人の男の子としての柊木先輩。

隣で作業する先輩の横顔が、いつもよりずっと近くて、私は高鳴る鼓動を抑えきれずにいた。
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