不幸を呼ぶ男 Case.1
【滝沢のアジト】
璃夏は彼のそのあまりにも重い告白にかける言葉を失っていた
ただ彼のその震える拳を見つめていることしかできなかった
滝沢「……ちょっと待て」
滝沢が何かに気づいたように呟いた
滝沢「忘れていた……」
璃夏「何をですか?」
璃夏は不思議そうな顔で滝沢を見た
滝沢「毎日の事で何とも思ってなかったが……」
璃夏「?」
滝沢「俺は毎日軍医に注射を打たれていた」
滝沢「その頃は『お前は特別だから』と栄養剤だと言われていたが……」
璃夏「注射がどうしたんですか?」
滝沢「俺が今日うなされていた夢……」
滝沢は璃夏の目を真っ直ぐに見た
滝沢「あのドクターに注射を打たれてうなされていたんだ……」
滝沢は必死に夢の断片を繋ぎ合わせようとする
滝沢「もしかしてあの夢は……」
滝沢「俺の消えた記憶……」
滝沢「俺の記憶は少しずつ戻って来ているのか?」
璃夏「そのクリスマスから先の記憶はあるんですか?」
滝沢「あぁ……」
滝沢は頷いた
滝沢「多少断片的だがな……」
璃夏「じゃあ一旦その全てを教えてください」
璃夏は覚悟を決めた目で言った
滝沢「……あぁ」
【回想 ― ロシア軍事施設】
それからも普段通りの訓練の日々が続いた
しかしある時その日常は唐突に終わりを告げる
セルゲーエフスキー演習場
そこで大規模で長期間に渡る軍事演習が行われていた
その最中だった
イヴァンが俺の仮設テントのドアを勢いよく開けて入ってきた
その顔は血の気が引いて真っ青だった
イヴァン「タキ!」
彼は俺の両肩を力強く掴んだ
滝沢「どどうしたんだ?イヴァン」
イヴァン「良く聞けタキ!」
イヴァン「ここにいちゃいけない!」
イヴァン「逃げるんだタキ!」
滝沢「だからどうしたって聞いてるんだ」
イヴァン「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」
イヴァンは何かとてつもなく重要なことを言おうとした
だがその肝心な部分だけがどうしても思い出せない
まるで脳がその記憶を再生することを拒絶しているかのように
とにかくイヴァンが言うには
この演習期間中にロシアから出なければならないということ
そして逃げる方法は親友である俺のためにイヴァンが全て何とかするということ
それから数日後
イヴァンが一枚の航路図を持ってきた
ウラジオストク港から東京湾行きの貨物船が出る
その日の深夜に出航するその船に乗れと
俺は迷った
俺の記憶はこの軍事施設から始まり今も軍の中にいる
外の世界……いや日本に行くなんて考えたこともなかった
だがイヴァンの目は本気だった
幸い大規模な軍事演習のおかげで人の出入りは激しい
その混乱に乗じて俺はイヴァンに連れられウラジオストクの港へと向かった
夜のウラジオストク港
潮の匂いと錆びた鉄の匂いがした
俺が生まれて初めてできた親友
その親友との別れ
俺たちは言葉もなく強く抱き締め合った
そして二人で子供のように泣いた
「……行けタキ」
イヴァンが最後にそう言った
俺は一度だけ振り返りそして貨物船のタラップを登った
それが俺が見た親友の最後の姿だった
璃夏は彼のそのあまりにも重い告白にかける言葉を失っていた
ただ彼のその震える拳を見つめていることしかできなかった
滝沢「……ちょっと待て」
滝沢が何かに気づいたように呟いた
滝沢「忘れていた……」
璃夏「何をですか?」
璃夏は不思議そうな顔で滝沢を見た
滝沢「毎日の事で何とも思ってなかったが……」
璃夏「?」
滝沢「俺は毎日軍医に注射を打たれていた」
滝沢「その頃は『お前は特別だから』と栄養剤だと言われていたが……」
璃夏「注射がどうしたんですか?」
滝沢「俺が今日うなされていた夢……」
滝沢は璃夏の目を真っ直ぐに見た
滝沢「あのドクターに注射を打たれてうなされていたんだ……」
滝沢は必死に夢の断片を繋ぎ合わせようとする
滝沢「もしかしてあの夢は……」
滝沢「俺の消えた記憶……」
滝沢「俺の記憶は少しずつ戻って来ているのか?」
璃夏「そのクリスマスから先の記憶はあるんですか?」
滝沢「あぁ……」
滝沢は頷いた
滝沢「多少断片的だがな……」
璃夏「じゃあ一旦その全てを教えてください」
璃夏は覚悟を決めた目で言った
滝沢「……あぁ」
【回想 ― ロシア軍事施設】
それからも普段通りの訓練の日々が続いた
しかしある時その日常は唐突に終わりを告げる
セルゲーエフスキー演習場
そこで大規模で長期間に渡る軍事演習が行われていた
その最中だった
イヴァンが俺の仮設テントのドアを勢いよく開けて入ってきた
その顔は血の気が引いて真っ青だった
イヴァン「タキ!」
彼は俺の両肩を力強く掴んだ
滝沢「どどうしたんだ?イヴァン」
イヴァン「良く聞けタキ!」
イヴァン「ここにいちゃいけない!」
イヴァン「逃げるんだタキ!」
滝沢「だからどうしたって聞いてるんだ」
イヴァン「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」
イヴァンは何かとてつもなく重要なことを言おうとした
だがその肝心な部分だけがどうしても思い出せない
まるで脳がその記憶を再生することを拒絶しているかのように
とにかくイヴァンが言うには
この演習期間中にロシアから出なければならないということ
そして逃げる方法は親友である俺のためにイヴァンが全て何とかするということ
それから数日後
イヴァンが一枚の航路図を持ってきた
ウラジオストク港から東京湾行きの貨物船が出る
その日の深夜に出航するその船に乗れと
俺は迷った
俺の記憶はこの軍事施設から始まり今も軍の中にいる
外の世界……いや日本に行くなんて考えたこともなかった
だがイヴァンの目は本気だった
幸い大規模な軍事演習のおかげで人の出入りは激しい
その混乱に乗じて俺はイヴァンに連れられウラジオストクの港へと向かった
夜のウラジオストク港
潮の匂いと錆びた鉄の匂いがした
俺が生まれて初めてできた親友
その親友との別れ
俺たちは言葉もなく強く抱き締め合った
そして二人で子供のように泣いた
「……行けタキ」
イヴァンが最後にそう言った
俺は一度だけ振り返りそして貨物船のタラップを登った
それが俺が見た親友の最後の姿だった