夕日が沈む丘にて
 バスに乗ってぼんやりと窓の外を見ているとやっぱり茂之のことを思い出すんだ。
あいつの代わりに受け取った卒業証書を仏壇に供えたら今日は終わり。
 でもさ、すぐには家に行く気になれなくて丘に登ってきたんだ。
あいつも俺の家には時々遊びに来た。 そんなに話すことは無かったけどね。
 反対にあいつの家に行ったことは無い。 友達だって集まるのを嫌がってたんだから。
いろいろ有ったことは聞いてたよ。 だから俺もずけずけとあいつの家には行けなかった。
2年ぶりかな、あいつの家に行くのは。 葬式だって祭場だったから。
 丘を下って見慣れた街並みを横切っていく。
しばらく行くと保育園が在ってそれを過ぎると赤く塗られたガレージが見えてくる。
そこにはまだやつのバイクが止まっている。 けっこうな壊れ具合なんだけどなあ。
 玄関のチャイムを鳴らす。 「おー、来てくれたのか。」
「そうです。 卒業証書を渡す約束をしていたので、、、。」 親父さんが部屋へ案内してくれる。
 茂之の部屋だった2階の一室には真新しい仏壇が置いてある。 仏壇屋から急いで買ってきたんだそうだ。
扉を開いてみると澄ました顔の茂之が覗いていた。
 「お前も卒業したぞ。 おめでとう。」
卒業証書を広げてから線香に火を点ける。
手を合わせていると母さんが入ってきた。 「ありがとうね。 ほんとに卒業したんだね?」
「そうです。 出来れば隣に居てほしかった。」 「そうでしょうね。 仲良しだったもんね。」
 蝋燭の火が揺れている。 なんか茂之が手を振ってるみたいだ。
 「俺のことはいいから自分のことを考えろ。 お前はどっか抜けてんだから。」
そう言っているような気がするな。
 遺影を見詰めながら物思いに耽ってみる。 明日からはしばらくの休みだ。
みんな新しい世界へ旅立っていく。 覚悟を決めなきゃね。
なあ、茂之。
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