冤罪で王子に婚約破棄されましたが、本命の将軍閣下に結婚を迫られています⁉︎

「ユフィルナ・エルヴァリシア。国家反逆罪にて、貴様をこの国から追放する!」
 壇上から高らかに宣言したのは、このノルディア王国の王太子であり、ユフィルナの婚約者シルファンだった。

「国家……反逆罪?」
 ユフィルナはわずかに眉をひそめる。窓から入ってきた薫風(くんぷう)が、亜麻色の長い髪をさらさらと撫でていった。

 春季叙勲式と呼ばれる、王国が主催する年に一度の名誉授与の儀式の最中である。大広間には受勲のために呼ばれた者やその家族、関係者がずらりと並んでいた。

 ユフィルナは、任務で王都を離れている王国軍元帥である父の名代として、この場に出席している。

 だが名を呼んだのが国王ではなく、突然席を立ってやってきたシルファンで、ユフィルナを名指ししたという時点で、違和感はあった。

 その場にいた全員の視線が、下段の床に立つ彼女に注がれる。

「元帥閣下の娘が国家反逆だと……?」

「由緒あるエルヴァリシア公爵家もここまでか……」

「いったいどんな悪行を……!?」

 彼らの勝手な憶測が耳に飛び込んでくるが、ユフィルナは顔色一つ変えない。

「私には、そのような心当たりはございません」
 まっすぐ婚約者を見つめる瞳は、父親譲りの澄んだ翡翠色をしている。

「素直に認めればいいものを。証拠をここに――ザネラ」
 鼻白んだシルファンは、壁際に控えていた侍女に声をかけた。

 呼ばれたザネラは小さく頭を下げ、しずしずとシルファンのそばへやってくる。

「殿下、失礼いたします。襟元が少し乱れておいでですわ」
 ザネラは囁きながら彼に身を寄せると、そっと彼の襟に触れた。

 丁寧に整えるその動作は、まるで主君を気遣う忠実な影のようだ。だが、その指先は不自然に長く留まり、指の腹で胸元をなぞるような仕草までしてみせる。

「……ありがとう、ザネラ。君はいつも細かいところまで気が利くな」
 シルファンが照れくさそうに笑うと、ザネラは遠慮深そうに目を伏せた。

「殿下のご公務に差し障っては困りますから。それと──こちらが例の書簡ですわ」
 そう言って一通の手紙をシルファンに渡す。ザネラは控えめな物腰を装いながら、シルファンの目が向けられるたび、艶やかな眼差しを彼に返した。



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