冤罪で王子に婚約破棄されましたが、本命の将軍閣下に結婚を迫られています⁉︎
ザネラがシルファンの側仕えとなったのは、半年前のことだ。その変化は急激だった。遠くに控えていたはずの彼女が、いつの間にか彼の私室の出入りを許され、やがて書類やお茶の準備まで取り仕切るようになっていたという。
実際にユフィルナも王宮に招かれた際には、それを目の当たりにしているし、社交界でもすでに噂になっている。
――王太子殿下は、あの女官に心を奪われているのではないか、と。
下唇を噛みそうになって、ユフィルナは自身を律するため静かに息を吐く。
シルファンとの婚約に互いの意思は介在していない。
ユフィルナの父は軍人であるがゆえに、その妻となる者の不安や苦労もよく知っていた。だから娘の結婚相手には、穏やかで豊かな人生を共に送れる相手を望んだ。とはいえ適当な貴族の下へ嫁がせ、娘の才知が埋もれてしまうのはもったいないと、国王に相談した。その結果、彼女が十歳の時にシルファンとの婚約が決まったのだった。
王家としても、軍閥貴族の筆頭であるエルヴァリシア公爵家を取り込めば、他の貴族も、より忠実に王命に従う土台ができると睨んだのだろう。
完全なる政略結婚だ。はじめから彼はこちらを見ていなかった。その目が今さら別の女性に向いたところで、何になるというのか。
――感情に溺れ、我を失うのは愚かしいことだ。
幼い頃から、父にはそう教えられてきた。心に波風を立てないように、ユフィルナは再び深く息をつく。
「この書簡には、軍の防備に関する情報が詳細に記されていた。そして、文末に貴様の名が署名されている」
シルファンが封筒から取り出した白い便せんには、たしかにユフィルナの名がつづられていた。だが筆致も稚拙で、見慣れた自分の文字とは明らかに異なる。
「私のものではありません。いたずらにしては度が過ぎておりますね」
真偽不明の紙切れ一枚で国家反逆罪とは、いくらなんでも強引だろう。
「だが貴様がこれを不審な男に渡しているのを、ザネラが目撃しているのだ。そして勇敢にもその男の後を尾けたが、気づかれて逃げられたという。そこに落ちていたのがこの書簡だ」
彼は、わざとらしく紙切れをひらひらと振る。
「ザネラの見間違いということも――」
「最近、ハンカチをなくさなかったか?」
実際にユフィルナも王宮に招かれた際には、それを目の当たりにしているし、社交界でもすでに噂になっている。
――王太子殿下は、あの女官に心を奪われているのではないか、と。
下唇を噛みそうになって、ユフィルナは自身を律するため静かに息を吐く。
シルファンとの婚約に互いの意思は介在していない。
ユフィルナの父は軍人であるがゆえに、その妻となる者の不安や苦労もよく知っていた。だから娘の結婚相手には、穏やかで豊かな人生を共に送れる相手を望んだ。とはいえ適当な貴族の下へ嫁がせ、娘の才知が埋もれてしまうのはもったいないと、国王に相談した。その結果、彼女が十歳の時にシルファンとの婚約が決まったのだった。
王家としても、軍閥貴族の筆頭であるエルヴァリシア公爵家を取り込めば、他の貴族も、より忠実に王命に従う土台ができると睨んだのだろう。
完全なる政略結婚だ。はじめから彼はこちらを見ていなかった。その目が今さら別の女性に向いたところで、何になるというのか。
――感情に溺れ、我を失うのは愚かしいことだ。
幼い頃から、父にはそう教えられてきた。心に波風を立てないように、ユフィルナは再び深く息をつく。
「この書簡には、軍の防備に関する情報が詳細に記されていた。そして、文末に貴様の名が署名されている」
シルファンが封筒から取り出した白い便せんには、たしかにユフィルナの名がつづられていた。だが筆致も稚拙で、見慣れた自分の文字とは明らかに異なる。
「私のものではありません。いたずらにしては度が過ぎておりますね」
真偽不明の紙切れ一枚で国家反逆罪とは、いくらなんでも強引だろう。
「だが貴様がこれを不審な男に渡しているのを、ザネラが目撃しているのだ。そして勇敢にもその男の後を尾けたが、気づかれて逃げられたという。そこに落ちていたのがこの書簡だ」
彼は、わざとらしく紙切れをひらひらと振る。
「ザネラの見間違いということも――」
「最近、ハンカチをなくさなかったか?」