拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 グラスを手に取ろうとしないホークの態度を、フィーヌは不思議に思う。

「おいおい。せっかくの祝い酒くらい飲めよ」
「祝い酒は構わないが、なぜこのグラスには薬が入っている?」

 ホークの指摘に、目の前の男の顔色がさっと変わる。
 その変化で、フィーヌはホークの指摘が事実なのだと悟った。

「俺を酔わせて前後不覚の醜態でも晒させる気だったのか?」
「いや、何か誤解を──」
「誤解? では、これを飲んでみようか」

 ホークは男からグラスを受け取る。

「言い忘れていたが、俺は酔うと人を殺したくなる。ずっと戦場にいたものでな。飲んでいないとやっていられない状況だったんだ」

 まるでお前が獲物だと言わんばかりの冷ややかな視線に、男は「ひっ!」と短い悲鳴を上げる。

「飲むな! だめだ!」
「どうして? 祝い酒なのだろう? 皆で祝おうじゃないか」
「ひいっ! 殺される!」

 悲鳴を上げた男は、あっという間にその場から逃げ出した。

「飲まないのか。つまらないな」

 ホークは残念そうに呟くと、真っ青な顔で一部始終を見守っていたウェイターに「これを下げろ」とグラスを手渡す。
 
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