拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 平民のロバートの才能を見出してダイナー公爵家の主幹事業のトップに据えたのは、今は病床に伏しているダイナー公爵だ。彼がダイナー公爵に対してただならぬ恩を感じていることは、フィーヌも知っていた。

 フィーヌはカバンから一枚の紙を取り出すと、そこにペンで文字を走らせる。
 
「これは、わたくしの連絡先よ。気が向いたら是非連絡してほしいの。いつでも待っているわ」
 
 メモを差し出すと、ロバートはおずおずとそれを受け取り、じっと見つめる。

「じゃあ、そろそろわたくしは行くわ。会えて嬉しかったわ。ごきげんよう」
「はい。お嬢様もお元気で」

 ロバートはハッとしたように顔を上げると、フィーヌの顔を見つめてから深々と頭を下げた。
 フィーヌは立ち上がり、事務所をあとにする。
 
(まあ、上々かしら?)

 はなから今日すぐに説得できるとは思っていなかった。
 ロバートに興味を持ってもらっただけでも、十分な成果だ。

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