拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 ここに来たときはシンプルだった室内には至る所に花が飾られて、いつの間にかフィーヌ好みに変わっていた。その変化に、二年というときの流れを感じる。

(二年、あっという間だったな)

 ホークと初めて出会ったダイナー公爵家の舞踏会からの記憶が走馬灯のように脳裏に蘇り、フィーヌは首を横に振る。早くここを立ち去らないと、ずっとここにいたいという気持ちがどんどん強くなる。
 
 フィーヌは机の引き出しの奥から、あらかじめホークに書いておいた手紙を取り出し机の上に置く。
 
「今までありがとうございます。そして、さようなら」

 後ろ髪を引かれる気持ちを断ち切って、カバンひとつ持って部屋を出た。

(よし。誰にも気付かれずに抜け出してこられたわ)
 
 城下でフィーヌは長距離乗り合い馬車の時刻表を眺める。

(えーっと、レイクタウン行きは──)

 フィーヌはカバンから懐中時計を取り出す。
 出発は三十分後だ。

 定刻までベンチに座りながら、町を歩く人々の往来を眺めた。そのとき、中年の婦人がお喋りしているのがたまたま耳に入り、フィーヌはドキッとする。

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