拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 正直、最後まで冷静でいられる自信がなかった。
 もしかしたら、ホークの前でみっともなく涙を流してしまうかもしれない。

「レイクタウン行き、そろそろ発車します」

 不意に聞こえた若い乗務員の呼びかけに、フィーヌはハッとする。

「乗ります」
「どうぞ。あと三分で出発です」
「ありがとう」

 乗り込もうとしたフィーヌはついいつもの癖で右手を差し出し、誰もエスコートしてくれないことに気付いて手を引く。

こういうのも、早く慣れないとね
 
 相乗りの長距離バスにはフィーヌの他に三人ほど人がいた。フィーヌは空いていた席に座る。
 馬車が動き始め、見慣れた景色が後ろに流れていった。
 

   ◇ ◇ ◇


 一方その頃、ホークは屋敷で忙しく仕事をこなしていた。

「西部地域で作業を続けている井戸の整備ですが、順調に工程が進んでいます。完成は再来月の予定で、完成式典には是非閣下と奥様にお越しいただきたいと」
「再来月なら、乾季に入る前に完成するな。よかった。完成式典にはふたりで参加しよう。日程を詰めておいてくれ」
「かしこまりました」

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