拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 もしもホークが逆上して一発でもバナージを殴ろうものなら、婚約者を寝取った挙句に暴力を振るった最低の男として糾弾できるからだろう。公爵家からの抗議を受ければ、辺境伯であれどもダメージを受けるのは確実だ。

 開け放たれたドアの向こう、廊下にはこの騒ぎに気付いた多くの貴族達が集まり始めていた。

「一体何の騒ぎなの?」
「ロサイダー卿とショット侯爵令嬢が密会していたようよ」

 好き勝手にこそこそと話す声がフィーヌのところにまで聞こえてきた。

(いけない。早くふたりを引き離さないと)

 ここまで広まれば、婚約破棄成立には十分な醜聞だ。
 既に、フィーヌの目的は達した。これ以上、ここに留まる必要はない。

「バナージ様」

 フィーヌは声を上げる。
 
「これ以上騒ぎが大きくなってご迷惑をおかけすることは本意ではございません。退室させていただいても?」

 バナージはふんっと鼻から息を吐く。

「弁解の余地がなくなり、いたたまれなくなって逃げるのか?」
「……お言葉ですが、わたくしは何もふしだらなことはしておりません。ふしだらと言うなら、バナージ様とレイナのほうがよっぽどふしだらな関係ではございませんか」

 はっきりと言い放ったフィーヌの言葉に、バナージの顔が赤く染まる。

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