拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
「厨房のシェリー? 誰だ?」
「え? アンナが時々シェリーさんが厨房にいるって──」
「ああ」

 ホークはようやく何かに気付いたかのように、ポンと手を打つ。
 
「厨房でときどき手伝いをしている、料理長の娘のことか? まだ十歳過ぎじゃないか?」
「十歳過ぎ……」

 まさか厨房にいるシェリーがそんな幼い子供だったなんて、全く知らなかった。
 どうりで使用人名簿に名前がなかったわけだ。それに、そんなに小さな子供ならアンナが『皆の人気者で、とっても可愛い』と褒めていたのも頷ける。
 
「まさか、そんな誤解をされていたとは。俺はそんなに、誠意に欠けた男だと思われていたのか?」

 ホークは傷ついたような、なんとも言えない顔をして項垂れる。
 その表情を見て、フィーヌはとても申し訳ない気持ちになった。

「ごめんなさい。すっかり勘違いしていて……その、確かめることができなくて──」

 一言、シェリーという女性とはどういう関係なのか確認していればこんなばかげた誤解はすぐに解けたはずだ。
 それなのに、フィーヌはこの二年間一度もシェリーについてホークに直接尋ねることができなかった。
 
< 138 / 193 >

この作品をシェア

pagetop