拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 けれど、実際に屋敷を飛び出して手に入れた自由な暮らしは、どこか大切なものが抜け落ちたかのような虚無感が常に付きまとっていた。ふとした表紙に思い浮かべるのはホーク、そして、よくしてくれた屋敷の使用人達の笑顔だった。

「もう二度と、俺から逃げないでくれ」
「はい」

 フィーヌは頷く。
 二度とこんな過ちは繰り返さないし、これからはホークを信じて何か誤解を生むようなことを見聞きした際はきっちり本人に確認しようと思った。

 ホークはふっと微笑むと、ポケットから小さな小箱を取り出した。

「フィーヌが出て行ったあの日、夜に話があると言ったのを覚えているか?」
「はい」
「実は、これを渡そうと思っていた」

 ぱかっと空けられた小箱の中を見て、フィーヌは息を呑む。
 そこには、眩い光を放つダイヤモンドの指輪が入っていた。ホークはそれを親指と人差し指で抓むと、反対の手でフィーヌの左手を取る。

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