拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 俯き加減に部屋を出るフィーヌの態度は、傍から見るとショックを受けているように見えただろう。
 
(やっと婚約破棄できたわ。本当に清々した)

 部屋を出てひとりになったフィーヌは、真っ直ぐに前を見て歩き始めた。
 喜びから、自然と口角が上がる。

「ふふっ、ふふふっ」

 ショックを受けているように見せたのは、目の前で大喜びすると何か企んでいると思われて婚約破棄をしてもらえなくなることを恐れたからだ。

(ああ。わたくし、遂にあの人とおさらばできるのね)

 まんまと騙されてくれて、喜びを抑えられない。

 「さようなら、おバカさん達」
 
 あの愚かで間抜けな婚約者から解放されたことが、嬉しくてたまらなかった。
 
   ◇ ◇ ◇
 
 
 ダイナー公爵家を出たホークは周囲を見回した。生憎、ロサイダー辺境伯家の馬車は見える範囲になかった。
 胸元から出した呼笛を鳴らすと、ほどなくして四頭立ての馬車が近づいてくる。

「早かったですね、閣下。会議の話はまとまりましたか?」

 気安い様子で話しかけてきたのは、ホークの右腕的存在であるカール・ウインザーだ。
 赤茶色の髪に浅黒い肌をした快活な男で、平民ではあるものの人格的にも能力的にもホークは彼を高く評価している。
 
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