拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
「人生で最も不愉快な会合だった。融資の話はなくなった」

 ホークはぶっきらぼうに吐き捨てると、馬車に乗り込む。一方のカールは「ええっ!」と声を漏らした。

「いい話だと思ったのに」
「金はなんとでもなる。ロサイダー辺境伯が困窮して万が一にも隣国に領地を取られたりすれば、一番困るのは国だ。国王陛下がそんな状態にするわけがないだろう」
「それはそうなのですが、現金がもらえればいろいろ武器を買い足せるので助かるのはたしかです」

 カールは不満げに顔を顰める。
 ロサイダー辺境伯家の近年の軍事支出規模をよく理解しているだけに、この融資への期待も大きかったのだろう。

 だが、突然降ってわいたこの融資の話が自分を王都に呼び出す口実であることを、ホークは最初から察していた。
 ホークがバナージと一緒に過ごした王立学院時代、彼は自分より身分が低い貴族令息を権力で従える典型的な親の七光りタイプの学生だった。やせ細った子供が物乞いしていても硬貨一枚恵まない男が、何のメリットもない巨額の融資などするはずがない。

 さらに、ホークには『魔眼』の神恵がある。ひとの悪意が見えるのだ。バナージが学生時代から自分に悪意を持っているようだというのは知っていた。
 だから、手紙が届いたときから十中八九何か別の狙いがあってのことだろうとわかっていた。
 
 それがわかっていながらもホークが王都に来たのは、バナージが自分を呼び出して企んでいるその〝何か〟の内容が気になったからだ。万が一にも何かしらの政治抗争が動いているのならば、早めに不穏な芽は摘んでおいたほうがいい。

(まさか、婚約破棄の口実作りに利用されるとはな)

 ひとえにバナージがホークの想定を上回る愚か者であったということなのだろうが、全く想定外だった。
 
「では、四日もかけて王都に来たのに収穫ゼロですか?」

 カールがホークに尋ねる。
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