拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 数カ月前、バナージの父であるダイナー公爵が病に倒れた。嫡男として公爵代行をしているバナージはこれ幸いと、爵位を傘にロサイダー家に近い家門に圧力をかけた。
 公爵家から睨まれたくない家門は、ロサイダー辺境伯家と距離を置くはずだ。

「おい、バナージ。ゲームの続きをやろうぜ。賭けないのか?」
「賭けるさ」

 友人達に声をかけられ、ホークはテーブルに向き直る。

「さっき、ホークの奴『俺の婚約者』って言っていたよな? あいつとフィーヌ嬢って婚約したのか?」

 ひとりが不思議そうに言った言葉に、バナージはハッとする。

(確かに言っていた。あいつら、結婚するのか?)

 ふたりを閉じ込めはしたが、本当は何もなかったことバナージはよく知っている。それなのに結婚するとなると、男女の中であると醜聞が広がった責任を取って、結婚することになったのだろう。

「ははっ。それはお似合いだな。負け犬同士で」

 バナージは腹を抱えて笑う。辺境伯領は巨額の軍事費で常に資金繰りが大変だと聞く。融資を得られない以上、ふたりはひもじい生活を余儀なくされるだろう。

「物乞いのように土下座しに来たら、少しは出してやるか」
  
 バナージはくくっと笑う。
 
 (辺境伯だからって偉そうにしやがって。あいつは負け犬で、勝ったのは俺だ。金に権力に、誰もがうらやむ神恵を持つ妻。完璧だ)

 そう思うと、溜飲が下がる思いだ。
 ウェイターが注いだワインをぐいっと飲み干す。いつにも増して、甘美な味わいがした。

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