拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
「以後、俺の婚約者を貶めたら首が飛ぶと思え」
ぞっとするような声に、背筋が凍り付く。ホークは言いたいことは言ったとばかりにすたすたと入口のほうへと歩いてゆくと、町の中へと消えて行った。
「やばいなアイツ。殺されるかと思った」
「さすが死神と呼ばれただけあるな」
一部始終を見ていた友人達はホークの後ろ姿を見送りながらコソコソと囁き合う。
「くそっ! あいつ!」
バナージは声を荒らげた。
(あいつは昔からああだ。くそっ、バカにしやがって)
貴族学院に在学中、公爵令息であるバナージは学園ヒエラルキーの頂点にいた。誰も公爵家に睨まれたくはないので、多くの取り巻きがバナージをおだてたのだ。
そんな中で、ホークはバナージに対して絶対に媚びを売らないどころか、虫けらでも見るような目で見下ろしてきた。
それに、ホークは学業成績もよく剣の腕に至っては教師である元騎士ですら勝てないほど。さらには、バナージには理解しがたいが、ホークは学院の多くの学生達にも慕われていた。爵位で周囲を従えるバナージに対し、ホークは人柄で人を引き寄せる。
「気に入らない」という感情が「嫌いだ」に変わるのはすぐだった。
(融資を申し出る家門は見つからない。俺が手を回したからな。ざまあみろ)
薄ら笑いを浮かべながら、バナージはホークの後ろ姿を見送る。