拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
フィーヌはホークの手を取ると、お礼を言う。
屋敷の前にはずらりと軍服を着た人が並んでいた。ロサイダー領の戦士達だ。
(さすが辺境伯ね。王都の貴族の屋敷とは全然景色が違うわ)
フィーヌは内心で驚く。
「部屋は既に用意してある。案内しよう」
「はい、ありがとうござます」
ホークが歩き出したので、フィーヌは彼を追いかけた。
ロサイダー家の屋敷は領主館及び軍事施設を兼ねているだけあり、実家であるショット侯爵家はもちろんのことダイナー公爵家よりも大きかった。
「とても広いし、複雑な構造をしているのですね」
「敵襲に遭った際は要塞になる建物だから、初見の者が容易には目的の部屋に辿り着けないよう、わざと複雑にしてある」
「へえ」
フィーヌは今来た廊下を振り返る。言われてみれば、無機質な石造りの廊下は目立った目印もなく、まるで迷路のようだ。
歩くこと数分で、ホークはとあるドアの前で立ち止まった。
「ここだ」
ホークがドアを開く。
ドアの向こうには、上品で機能的な部屋が広がっていた。木目調の家具はどれもずいぶんと年季が入っているように見えるが、大切に使われていたようで壊れてはいない。
王都の高級ブティックで見かけるような華美な装飾はなく、純朴な印象を受けた。
「とても使いやすそうなお部屋ですね。ありがとうございます」
「ああ」
ホークは視線を部屋の壁際に向ける。
「夫婦の寝室は隣の部屋、俺の私室はその向こうにある。到着したばかりで疲れているだろうから、ゆっくりしてくれ。夕食は一緒に取れるか?」
「はい、是非」
フィーヌは頷く。
「では、そのように手配しよう。それと、我々の結婚式なのだが……先日までの国境防衛で多くの被害者が出た影響で、ロサイダー領全体が喪に服している。だからその──」
ホークは口ごもる。
「承知しております。挙式はなしでも構いません」
フィーヌの言葉に、ホークは眉根を寄せた。