拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
「しかし、女性にとっては特別なものだと聞いたことがある。だから、喪が明けたら実施しよう」
「本当になしで構わないのです。結婚式はお金がかかりますし、書面上わたくし達はもう夫婦です」
「気を使わせて悪いな」
「いいえ、お気をなさらずに。領民に寄り沿わねば、受け入れていただけませんから」
「そうか」
相槌を打つホークの表情が、ほんの少しだけ緩んだ気がした。
「きみの侍女になる予定の者だが、今夜から登城予定だ。俺は打ち合わせがあるので私室に戻るが、それまでに何か困ったことがあったら遠慮なく声をかけてくれ」
「はい、かしこまりました。ありがとうございます」
フィーヌは深々と頭を下げ、ホークを見送った。
部屋にひとりになったフィーヌはドサッとソファーに倒れ込む。
「ホーク様は紳士的だし、屋敷の方達も好意的。うん、上手くやっていけそうな気がするわ」
意図しない縁だったけれど、もしかしたら思いがけない良縁なのかもしれない。
(夕食の時間まではあと一時間か。何して過ごそうかしら? ……そうだ!)
できるだけ早くここに慣れたいので、屋敷のどこに何があるか屋敷で働く人々のことを知りたい。
(ホーク様に頼んで、どなたかに案内していただこうかしら?)
確か、寝室のその奥は彼の私室だったと言っていたのを思い出し、フィーヌは寝室の奥に向かう。ドアを開けようとドアノブに手を伸ばしかけたとき、ドアの向こうから話し声が聞こえることに気付いた。
(もう打ち合わせが始まってしまったのかしら?)
そうならば、案内を頼むのはあとにしたほうがいいだろう。夜になればフィーヌ付きの侍女も来るはずだから、急ぐ必要もない。
そう思ったフィーヌはその場を離れようとする。しかし、ふとドア越しに聞こえてきた声に動きを止めた。