拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
執務室から見える外はすっきりとした青空が広がっている。
外を散歩すればきっと爽やかな気分になれるだろう。
「ねえ、アンナ。少し散歩に行こうと思うのだけど──」
「ご一緒します」
フィーヌが頼んだ書類整理をしていたアンナは手を止めてにこりと微笑んだ。
外に出ると、爽やかな風が吹いていた。
ロサイダー領は内陸地にあり、昼夜の寒暖差が大きい。10月ともなると夜はだいぶ冷えるのだが、日中の太陽が出ている時間帯はとても過ごしやすかった。
「どちらに行かれますか?」
「うーん。どうしようかしら」
「花園でもあればよろしかったのですが」
悩むフィーヌを見て、アンナも眉尻を下げた。
非常事態が発生した際の要塞という性質もあり、この屋敷には多くの貴族の屋敷にあるような色とりどりの花に囲まれた庭園がない。散歩と言えば花を見に行く生活をしていたので、その点寂しさを感じる。
「以前、大奥様がまだお元気だったころに軍人ばかりでむさ苦しい雰囲気を変えようと、ご実家の領地から花の苗を取り寄せて屋敷の周りに植えたことがあるんです。しかし、上手く根付かなくて」
「へえ、そうだったのね……」
ロサイダー領の土地では野菜も碌に育たないと聞くので、観賞用の花が育つのは難しいだろう。
(雨は降るし、日光も出ている。なのに育たないとなると、土の問題かしら?)
そのとき、フィーヌはふと閃いた。
(気候はどうしようもないけど、土の問題ならわたくしの神恵でなんとかできるかも?)
フィーヌは何もない空間に向かって、「ヴァル!」と呼びかける。
「奥様、どうされたのですか?」