拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
アンナはフィーヌの突然の行動に驚いていたが、フィーヌは口元に人差し指を当てて「しーっ」と言う。
程なくして、ぴょこんと小さな小人が現れた。ヴァルだ。
「フィーヌ、呼んだか?」
「ええ。また力を貸してほしいの。ここの大地は植物が育ちにくいのだけど、ヴァルの力でなんとかならない?」
「もちろん、なんとかできるぞ。なにせ、オイラは土の精霊だからな」
エッヘンとでも言いそうな得意顔で、ヴァルは自分の胸を拳で叩く。
「まあ、見てな」
ヴァルが大地に手を触れる。すると、ヴァルが触れた場所から周囲に広がるように、赤茶色の土がこげ茶色に変わっていった。土が肥沃なものに変化しているのだ。
「まあ、奥様! 見てください! 一体何が起こったのでしょう」
びっくりしたアンナが声を上げる。アンナにはヴァルの姿や声が認識できないので、突然フィーヌがぶつぶつと独り言を言い始めたと思ったら地面に変化が起こったように見えるだろう。
「アンナはわたくしの神恵が『土の声を聴ける』なのは知っている?」
「はい。旦那様からお聞きしました」
「その力を使って、ちょっと土壌改良してみたの」
「土壌改良? そんなことができるのですか? わたくしはてっきり、土が何かを話しているのをただ聞くだけの力なのだと思っておりました」
「ううん、違うわ。土の精霊とお話ができるのよ」
「まあ! 素晴らしい能力ですね!」
感激したようにアンナに手を握られ、フィーヌは苦笑する。
フィーヌの神恵のことを、アンナのように〝ただ土の声が聞こえるだけ〟だと勘違いしている人は多い。
「そうだろ、そうだろ。オイラの力は凄いんだぞ」
ヴァルはアンナが感激しているのにとても気をよくして、鼻高々な様子だ。
「フィーヌがいる土地はオイラがいるから豊かになることを保証してやるぞ」
「まあ、ふふっ。ありがとう、ヴァル」
フィーヌはくすくすと笑う。