拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
『手を植物にかざしてごらん』
頭の中に直接語り掛けるような不思議な声。その声に従い庭の草木に手をかざすと、蕾が見事に花を咲かせた。『緑の手』の力を授かったのだ。
緑の手は植物の発育を手助けするので、どこに行っても重宝される。『土の声が聴こえる』などという本当か嘘かも疑わしい神恵とは違い、誰もが欲しがる羨望の神恵だ。
案の上、レイナのところにも名門貴族からの婚約申し入れがひっきりなしに来るようになった。
中には侯爵家からのものもあったが、レイナはそれでも満足できなかった。
(お姉様が公爵家なのに、わたくしが侯爵家なのはおかしいわ)
しかし、結婚適齢期で未婚の嫡男がいる公爵家は残念ながらダイナー公爵家しかなかった。だから、奪うことにしたのだ。
顔を合わせるたびに『バナージ様!』と可愛らしく声をかけ、できるだけ自然に会話ができるように努めた。つんとした態度のフィーヌが言わないような甘える言葉を囁き、あなたがいないと生きていけないとでも言うような態度を取る。
バナージがレイナに惹かれ始めるまでに、そう時間はかからなかった。
『ねえ、バナージ様。わたくし、バナージ様とは一緒になれないのでしょうか?』
目を伏せて悲しげにすれば、バナージは『なんとかするから安心しろ』と言った。そうして計画されたのが、あのダイナー公爵家で起きた休憩室の事件だ──。
レイナはあのときのフィーヌの様子を思い返す。
(もっと悲しみに暮れて悔しがってくれたら面白かったのに)
想像以上にフィーヌがあっさりと状況を受け入れてしまったので、正直拍子抜けだった。
(だから、今度はもっと惨めな目にあわせてあげないと)
レイラはくすっと笑う。結婚式の日が楽しみだ。