拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 フィーヌは首を横に振る。

「いいえ、まだです。どこが乱れているのかよくわからなくって。どこか解けています?」

 フィーヌはくるりとうしろを向き、ホークに背中を見せる。

「……いや、特に解けているようには見えない」
「ですよね」
 
 フィーヌのドレスは、背中部分が編み上げになっていた。鏡越しに見る限り紐が解けている様子はなかったが、ホークから見ても解けていないということは、フィーヌをこの部屋に誘導するためのただの口実だったのだろう。
 
「申し遅れましたが、わたくしはショット侯爵家のフィーヌと申します。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

 今さらながら、彼に名乗っていないことに気付いたフィーヌは自己紹介する。
 フィーヌは若き辺境伯であるホークのことを一方的に知っているが、彼はフィーヌを知らないはずだ。

「ホーク・ロサイダーだ。ロサイダー辺境伯の当主をしている」
「ロサイダー卿のご活躍は王都にも聞こえてくるので、よく存じ上げております」
 
 フィーヌは深々と頭を下げてから一呼吸置き、また口を開く。

「恐らくこれから、この部屋で馬鹿げた出来事が起こります。どうかロサイダー卿は『自分は巻き込まれただけで全く関係がない』と主張してください」
 
 ホークはフィーヌを見つめ、片眉を上げる。

「きみは?」
「わたくしは、何を言っても通じないでしょう。でも、辺境伯であるあなたは違います」

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