拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
 ホークは何を言っているのかわからないと言いたげに、眉間に深いしわを寄せた。
 
 フィーヌの予想が正しければ、これから始まるのは彼女を陥れるために仕組まれた馬鹿げた演劇だ。ただ優秀だったが故にバナージから敵視されてこの場に巻き込まれたホークには、できるだけ迷惑をかけたくないと思った。

 そのとき、ドアの向こうから複数の足音が聞こえてきた。「ここだ!」という声もする。

(来たわね)

 フィーヌはぎゅっとスカートの上の手を握る。
 
「誰か来たようだな」

 ホークも声に気付いたようで、立ち上がる。
 どんなに回しても開かなかったドアはいとも簡単に外側から開け放たれた。

「こんなところに男を連れ込んでこそこそといかがわしい行為をするとは、見損なったぞフィーヌ! こんなふしだらな女だったとは!」
 
 ビシッと右腕を水平に上げて、現れた人物──ここダイナー公爵家の嫡男であるバナージは、フィーヌを指さす。
 
(男を連れ込んだ? いかがわしい行為ですって?)

 その言葉、そのまま返してやりたいと思った。
 バナージはフィーヌがホークを誘惑してこの部屋に連れ込み、ただならぬ関係になったと主張しているが、かく言うバナージが随分前から浮気していることに気付いてないとでも思っているのだろうか。
 
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