それが例え偽りの愛だとしても
「沙奈さん。」

不意に名を呼ばれて、私は肩を揺らした。

真人様のまっすぐな視線が、こちらを射抜くように向けられている。

その瞳に、思わず胸が跳ねた。

「……はい。」

「俺は、あなたの目に適ったでしょうか。」

「——えっ?」

思いがけない問いだった。

縁談とは、家と家との取り決め。

それなのに、まるで“私個人の意志”を問われたようで、言葉が出なかった。

真人様は、静かに続ける。

「中林家は、由緒正しい家柄です。その娘さんを妻にいただけるとは、矢井田にとっても光栄なことです。」

——ズキン、と胸が痛んだ。

私は正妻の子ではない。

けれど真人様は、それを知らずに“中林家の正統な娘”として私を見ている。

その真面目さと誠意が、かえって苦しかった。
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