それが例え偽りの愛だとしても
「この縁談、あなたに断られたら……俺も、両親に叱られそうで。」

真人様が、ほんの少しだけ微笑んだ。

それは冗談のようでいて、どこか本気にも見えた。

「……いえ」私は、言葉を絞り出す。

「むしろ、私の方が——真人様のお目に適ったか、伺いたいところです。」

真人様は一瞬だけ、目を丸くした。

けれどすぐに、やわらかく、あたたかく微笑んだ。

「可愛らしい人だ。——俺はあなたを、一目で気に入りましたよ。」

その一言で、心がほどけた。

気づけば、私の唇にも、自然な微笑みが浮かんでいた。

この人の言葉は、怖いくらいに優しい。

だからこそ、私は思った。

——いけない。

この人に、嘘をついている。

でも、こんなふうに笑い合えるなら。

たった一瞬でも“本物の花嫁”になりたいと思ってしまうのは、罪でしょうか。

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