それが例え偽りの愛だとしても
真人様のお父様が立ち上がり、ゆっくりと挨拶を始めた。

声は落ち着き、堂々としていて、この家の長としての重みを感じさせた。

その一言一言に、参列者たちが丁寧にうなずいている。

静かな拍手が起こると、あたたかな空気が部屋に満ちた。

(こんなふうに祝ってもらえる日が、私にも来るなんて)

そう思うと、胸の奥がじんわりと熱くなった。

「それでは、三々九度に移ります。」

進行役の声に導かれ、銀の器に注がれた酒が運ばれてくる。

小さな杯が、真人様の手へ。
そして、私の手にも。

……実は、酒なんて飲んだことがない。

手の中の杯が、わずかに震える。

唇をつけると、ふわりと甘い香りがした。

「……うん」

杯を口に運び、ゆっくりと飲み込む。

舌に触れた瞬間、ふわりと甘い香りがしたかと思えば、その奥に、思わず眉をしかめたくなるような苦味があった。

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