それが例え偽りの愛だとしても
(これが、大人の味……)

そう理解しても、やっぱり——美味しいとは思えなかった。

「どうだ? 酒の味は。」

真人様が、横目で私を見ながら小さく問いかけてきた。

「……美味しいとは……言えません。」

つい、素直に言ってしまった。

真人様は、ふっと笑った。
柔らかく、やさしい笑み。

「それは、頑張ったな。」

その一言に、胸の奥がほぐれていくようだった。

ようやく、この場に“私自身”として座ってもいいのだと思えた瞬間だった。

けれど、緊張が完全に解けるには、まだ早かった。

披露宴が始まり、真人様の周りには友人たちが集まり始めた。

皆、穏やかで礼儀正しく、気さくな人ばかりだった。

そのなかに——見覚えのある人物がいた。

「あっ」と、声に出してしまいそうになるのを、かろうじて堪えた。
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