それが例え偽りの愛だとしても
真人様が、ばつが悪そうに笑みを浮かべる。

「……お前、よくそんなことを人前で言うな。」

「もう手をつけてるのか?」

その言葉に、真人様が思わず身を乗り出した。

「そんなわけないだろ!」

声が少し、上ずっていた。

私も思わず顔が熱くなって、視線を伏せる。

その私を、真人様がそっと自分の後ろに隠すように立った。

「やめろ、紫炎……。そういう話を沙奈の前でするな。」

「へぇ、意外だな。」

紫炎さんは肩をすくめながら、酒を口に含む。

「前の恋人の時は、あんなに情熱的だったのに。」

——その言葉が、胸に突き刺さった。

ズキッ、と。一瞬、空気が止まったように感じた。

(……前の恋人? “あんなに”って……どういう意味?)

知らなかった。
知っていて当然のはずなのに。

きっと誰にでも過去はあるのに。
それなのに——苦しかった。
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