それが例え偽りの愛だとしても
「やめろ、紫炎……!」

「事実だろ?」と笑いながら、紫炎さんは続けた。

「婚約者に会いたいから付き合ってくれって言われた時、本当に結婚する気あるのか疑ったよ。」

「……どうしてですか?」

紫炎さんは酒杯をくるりと回しながら、くすくすと笑った。

「だってさ、結婚が決まってるのに“会いに行く”なんて、普通しないだろ? 本邸じゃなくて別邸だって言うし。」

——ピリッと、胸の奥が冷たくなる。

(やっぱり、覚えてる……あの場所のこと)

私の視線を感じたのか、真人様がすぐに口を挟んだ。

「おい、紫炎。そこまでにしておけよ。」

真人様の声には、珍しく硬さがあった。

紫炎さんは肩をすくめた。

「……あの後も、沙奈さんの元へ通ったんだろ?」

紫炎さんのからかうような声が、披露宴のざわめきの中でひときわ耳に届いた。
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